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伝統・民族

モロッコ・シャアビ

Moroccan Chaabi

モロッコ / 北アフリカ · 1920年〜

別名: Aita / Chaabi marocain

「人民の」を意味するシャアビは、モロッコの市場・結婚式・路上で歌われる都市民衆音楽の総称で、アラビア方言ダリージャの口語詩と即興演奏が中心をなす。

まずはここから

ひとことで言うと「人民の」を意味するシャアビは、モロッコの市場・結婚式・路上で歌われる都市民衆音楽の総称で、アラビア方言ダリージャの口語詩と即興演奏が中心をなす。

まずはこの曲からHaja El HamdaouiaMahmouma ▶ YouTube

代表的な人Haja El Hamdaouia

どんな音か

ウードとカヌーンの弦がほぼ拍ごとに細かく刻み、その上にダラブッカとタール(フレーム・ドラム)が不均等なアクセントを重ねる。リズムはシャアビ固有の3拍子や4拍子系のパターンで、西洋音楽で言う裏拍の感覚とは少しズレた位置に強調が置かれ、慣れないと身体がうまく乗れない。

歌い手の声は装飾音(マワール)を多用し、1つの音節に5〜10個の細かい音符をからめながら引っ張る。Haja El Hamdaouiaのように、この声が走るというより「たわむ」ような歌い回しがシャアビの大きな聴きどころだ。録音は1970〜80年代のカセット文化で広まったため、音質は乾燥した中音域が強く、リバーブは薄め。ライブでは余韻もなく次のフレーズへ進む緊張感がある。

聴きどころ

まず声と打楽器の間の『ずれ』に耳を向けてほしい。歌のフレーズが終わりそうなタイミングで打楽器が加速したり、逆に歌が走ったりと、2つの要素が引っ張り合いながら進む。ハッジャ・エル=ハムダオウィアの『Mahmouma』(1976)では、ウードの短い間奏の直後に声がふいに入ってくる瞬間があり、そのタイミングのつかみ方がシャアビの緊張感を体現している。次にリズムの地方的な差異で、東部(オウジダ)のシャアビはアルジェリアのraiに近い加速する4/4、中部(カサブランカ)は跳ねる4/4、南部(マラケシュ)はgnawaの6/8を混ぜる。ナジャト・アアタボウの『J'en ai marre』(1983)は女性の側から結婚と家父長制への不満を叫ぶ革新的な楽曲で、伝統的なaita的な叫びと、都市的な編集感覚を融合させている。ナス・エル=ギワン以降の1970年代の民衆バンド運動はシャアビの器楽編成を丸ごとフォーク・ロック化したので、彼らの録音を聴くとシャアビが『どこまで拡張できるか』の上限が体感できる。歌詞はダリージャなので日本語話者には意味がわからないが、音節の長さと強さで感情のピークがどこにあるか自然にわかる。

初めて聴くなら

まずハッジャ・エル=ハムダオウィアの『Mahmouma』(1976)を聴いてほしい。録音が古くやや割れ気味だが、それがかえって当時の路上の湿度を伝えてくれる。次にナジャト・アアタボウの『J'en ai marre』(1983)、女性の視点から家父長制を批判する革新的な楽曲で、シャアビが政治的批評の器にもなり得ることを示す。ナス・エル=ギワン『Ya Sah』(1974)、シャアビが70年代フォーク・ロックにどう拡張されたかがわかる。より現代なら『Daoudi Live』のシリーズ、モロッコの結婚式で実際に鳴っているシャアビの熱気が伝わる。昼間に料理や作業をしながら、声の揺れだけを追う聴き方が最初の入口としてちょうどいい。

代表アーティスト

  • Haja El Hamdaouiaモロッコ · 1956年〜2021
  • Najat Aatabouモロッコ · 1980年〜
  • Abdellah Daoudiモロッコ · 1985年〜

代表曲

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生まれた背景

シャアビという言葉はアラビア語で「民衆の」を意味し、20世紀初頭のカサブランカやラバトで形成された。1920〜40年代、フランス保護領下での急速な都市化によって農村から移民が流入し、アンダルシア宮廷音楽とベルベルの民俗音楽が混ざり合う新しい場が路地に生まれた。

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ラジオ局が1928年に開設されてからは、音楽が「家の外」に届くようになり、Haja El Hamdaouiaのような女性歌手がカセットテープを武器に1970年代に全国的な名声を得た。結婚式で夜通し演奏される慣習が現在も続いており、「祝いの夜の音楽」という社会的な文脈は変わっていない。

音楽的特徴の詳細

楽器ウード、ヴァイオリン、バンジョー、ダルブッカ、ベンディール、声

リズムアイタ系6/8、即興、シャアビ・ループ

発展

1970年代ナス・エル・ギワン、ジル・ジラーラがプロテスト・シャアビを生み、青年世代の社会運動と結びついた。21世紀には電化シャアビ、ヒップホップとの融合、海外モロッコ系コミュニティでの発展が進む。

出来事

  • 1932: アイタの初期録音
  • 1971: ナス・エル・ギワン結成
  • 1985: ハジャ・アル・ハマダウィヤ全盛期
  • 2010: モロッコ・ヒップホップとの融合

派生・影響

アイタ、ガルナーティ、ライ、ヒップホップと交差。

日本との関係

日本モロッコン・シャアビを専門に紹介する場はほぼ存在しないが、近年ストリーミング・サービス経由でハッジャ・エル=ハムダオウィアやナジャト・アアタボウの録音にアクセスできるようになった。世界音楽研究者の間ではモロッコの女性シャアビ歌手の政治性(家父長制への批評)が注目されており、大阪大学、東京外国語大学のマグレブ地域研究で言及されることがある。近年は世界的なフェミニズム音楽再評価の流れで、ナジャト・アアタボウが英語圏の音楽メディアで再評価されており、その影響は日本の音楽誌にも及びつつある。モロッコ大使館主催の文化イベントで稀に現地のシャアビ歌手が来日するが、公開演奏は限定的だ。

豆知識

『シャアビ』の語(アラビア語で『民衆の』)はモロッコ以外にアルジェリアにも同名のジャンルがあり、まったく別の音楽を指す。アルジェリア・シャアビはウード独奏文化が強く、リズムの組み方も異なる。

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両方に『民衆音楽』の意味は共通しているが、モロッコン・シャアビ(モロッコ・シャアビ)と必ず区別して調べる必要がある。ハッジャ・エル=ハムダオウィアは2021年10月に91歳で亡くなり、モロッコ政府は国葬を執り行った——シャアビ歌手として異例の名誉だった。彼女は生前一貫して『aitaは私の母だが、シャアビは私が育てた』と語り、農村のシーカ伝統を都市の商業音楽に橋渡しした自負を持っていた。ナジャト・アアタボウの『J'en ai marre』は当時モロッコの一部保守勢力から批判されたが、フランスに住むモロッコ移民の女性たちに絶大な支持を受け、以降のマグレブ女性歌手の政治的表現の道を切り開いた。

影響・派生で結ばれたジャンル

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モロッコ・シャアビを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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感触が近い系譜も地域も違うのに、聴くと通じるジャンル

モロッコ・シャアビが好きな人は、この6つも刺さる可能性が高いです。系譜図には出てこない、意外な隣人たち。

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