伝統・民族

ケチャ

Kecak

バリ島 / インドネシア / 東南アジア · 1933年〜

別名: Monkey Chant / ラーマヤーナ・モンキー・チャント

バリ島の100人以上の男声合唱とラーマヤーナを演じる声楽舞踊。

どんな音か

100人以上の男性が輪になって座り、「チャッチャッチャッ」「チャカチャカ」などのシラブル(音節)をリズミカルに連呼する。楽器は一切ない。複数のグループが異なるリズムパターンを同時に唱え、その重なりが打楽器アンサンブルと同等の複雑なリズム織物を生む。中心では俳優がラーマーヤナの場面を演じ、炎のたいまつが照らす。声の渦と炎と夜の空が、他の音楽形式では出せない演劇的な空間を作る。

生まれた背景

ケチャは古代からあった宗教的トランス儀礼(サンヤン)の合唱部分を取り出し、1930年代にバリのブドゥル村でドイツ人芸術家ワルター・シュピース(Walter Spies)とダンサーのワヤン・リンタールが演劇として再構成したものとされる。つまり「伝統」と「創作」の境界が曖昧なジャンルだ。観光向けの公演として定着した後も、宗教的な側面は維持されており、特定の聖地での演奏は儀礼的意味を持つ。

聴きどころ

まず「チャッ」という音一つに集中する。それが何層にも分かれて互い違いに鳴っていることが分かってくる。低い「チャカチャカ」、高い「チャッチャッ」、間に挟まる「ウォー」という吠え声が別のグループから来ていることを確認すると、全体のリズム構造が見えてくる。夜の野外での公演映像を見ると、音響だけでなく空間の圧力が伝わる。

発展

戦後は観光プログラムとして発展し、ウブドのチェチャ村など複数の上演拠点が確立した。1971年の映画『悪魔の沼』(R・ポランスキー)・1992年の坂本龍一プロデュース等で世界的に知られた。現在もバリ各地で日没時に上演される観光舞台の定番。

出来事

  • 古代: バリのサンギャン儀礼。
  • 1933年: シュピースとリンバがケチャ創出。
  • 1971年: 映画でケチャ世界紹介。
  • 1992年: 坂本龍一プロデュース。
  • 2015年: バリ三舞踊群ユネスコ無形文化遺産登録に含まれる。

派生・影響

世界の合唱・声楽パフォーマンスに刺激を与え、現代ヴォーカル・アンサンブル(Stomp等)の発想源の一つともされる。

音楽的特徴

楽器男声合唱(楽器なし)、火、踊り

リズムチャッの複合ポリリズム、ラーマヤーナ語り、トランス的繰り返し

代表アーティスト

  • I Nyoman Wentenインドネシア · 1965年〜

代表曲

日本との関係

バリ島は日本人に人気の観光地であり、ウブドのケチャ公演は観光客が日常的に見る機会がある。日本の観光雑誌や旅行ガイドでも紹介されることが多く、「バリといえばケチャ」という認識を持つ人は多い。純粋に音楽として聴く機会は少ないが、体験として知られている数少ない民族音楽のひとつだ。

初めて聴くなら

Iニョマン・ウェンテンの『Cak Rina』(1990年)や、ウブドでの実演映像(YouTubeで多数ある)から入る。夕暮れの野外で火を使った演出の映像は、音と光と空間が一体化した経験として見る。

豆知識

ワルター・シュピースがケチャの演劇化に関わったという事実は、20世紀になって「外部者によって再構成された伝統」という文化人類学的議論の素材になっている。バリ人自身はケチャを自分たちの文化として強く同一視しており、その「発明」の経緯を強調することへの抵抗感もある。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1300年代1930年代ケチャケチャバリガムランバリガムラン凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
ケチャを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

ケチャ の系譜全体図(多段)を見る

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