エチオピア聖歌
エチオピア正教会(テワヘド派)の典礼で歌われる古典ゲエズ語聖歌。打楽器と祭儀舞踊を伴う。
どんな音か
ゲエズ語(古い儀式言語)で唱えられる旋律は、西洋の『調性』とも、アラビア古典音楽の『モード』ともやや異なる体系を持つ。音は『段階的』に上昇・下降するのではなく『飛躍』し、その飛躍のたびに唱者の体が微妙に振動する。複数の唱者が異なる音高で同時に進行する『カノン的な重層』と、打楽器(クラス、セナセル)の『地響き』が、祭儀空間全体を『包む』。
生まれた背景
聴きどころ
ゲエズ語の音韻(特にグロッタル音の引き出し方)が、旋律の『位置』を決定している。つまり、『言語と音楽が一体』であり、その分離を試みると曲の本質が失われる。また、複数唱者による『層のズレ』も意図的に計算されており、その『不一致の美学』がエチオピア聖歌の特異性。
発展
16世紀グラニュ侵攻や19-20世紀の改革を経ても伝統は維持され、デブテラ養成校(教会附属マハレタ・ベト)で口承教育が続く。1959年エチオピア教会のコプト教会からの自立と総主教制成立により制度的基盤が確立した。1960年代以降はエチオ・ジャズ(ムラトゥ・アスタトゥケら)に旋法素材として浸透した。
出来事
- 330頃: アクスム王エザナ受洗
- 6世紀: 聖ヤレード、ゼーマー体系を整備(伝承)
- 1270: ソロモン王朝復活、教会・聖歌の制度化
- 1959: エチオピア正教会自立、独自総主教任命
- 1991: メンギスツ政権崩壊、教会音楽の公的復興
派生・影響
ムラトゥ・アスタトゥケ、ゲタチェウ・メクリャらのエチオ・ジャズ、エチオピア民俗音楽全般に音律と旋法を提供した。
音楽的特徴
楽器声(デブテラ合唱)、シストラム(センセル)、カバロ太鼓、マクワミヤ(祭儀杖)
リズム3旋法(Geʽez/Ezel/Araray)、ゲエズ語、祭儀舞踊と一体
代表アーティスト
- Mahbere Kidusan Ethiopian Orthodox Choir
代表曲
Mezmur (Ethiopian Liturgy) — Mahbere Kidusan Ethiopian Orthodox Choir
日本との関係
初めて聴くなら
豆知識
エチオピア正教会は、イスラム侵攻の激しい時代に『山岳隔絶地帯での孤立的生存』を余儀なくされ、その結果、独自の音楽体系を醸成した。つまり、この音楽は『被圧迫者の音楽』でありながら『独立性の象徴』でもある。
