コプト聖歌
エジプトのコプト正教会で伝承される古代エジプト・ギリシャ起源を持つキリスト教典礼歌。
どんな音か
ゲエズ語(古代アラビア語とアムハラ語の要素が混ざった言語)で唱えられる旋律は、西洋の調性音楽ではなく、古代ギリシャ理論に基づく7つのモードが組み合わされている。音程は『階段状』ではなく『スライド』に近く、子音の息の引き出し方が楽器のように機能する。唱者は複数いることが多く、前唱者が節を立てると、後唱者たちが低い音域で同調する『カノン的』な構造。
生まれた背景
聴きどころ
ゲエズ語の音韻構造(特に咽頭音の)が、旋律の起伏と厳密に対応している。西洋の耳には『不安定』に聞こえる音程も、実は言語音韻学的には『安定』している。複数の奏者による層の作り方に注目すると、『音が上下する』のではなく『音が空間内に配置される』という感覚を持つ。
発展
イスラム期(7世紀以降)もコプト共同体内で口承により保存され、長く記譜化されないまま伝承された。20世紀初頭のラーガブ・モフタール、ラギブ・モウィーらによりカイロのコプト・クレリカル研究所で初めて記譜・録音され、近年は学術的整備が進んでいる。教皇シェヌーダ3世期(1971-2012)以降の宗派覚醒運動の中で世界に広まった。
出来事
- 451: カルケドン公会議、コプト教会分離
- 7世紀: イスラム征服後も典礼継承
- 1893: コプト・クレリカル・カレッジ設立、聖歌教育体系化
- 1976: ラギブ・モウィー、聖歌全集の楽譜出版
派生・影響
エチオピア正教会聖歌(ゼーマー)に教義・典礼を通じて影響を与え、エジプト民俗音楽との相互浸透も指摘される。
音楽的特徴
楽器男声斉唱、シンバル(ナーグース)、三角鉄
リズム自由リズム、長大なメリスマ、コプト語、独自旋法
代表アーティスト
- David Ensemble
代表曲
Coptic Liturgy of St. Basil — David Ensemble
日本との関係
初めて聴くなら
David Ensembleによる『Coptic Liturgy of St. Basil』。聖堂での実況録音が望ましいが、スタジオ版でも十分に『建築空間の音響』が感じられる。深夜、家を静かにして聴くと、集団で祈る人々の呼吸音そのものが音楽化している様子に気づく。
