古典

ヴァルナム

Carnatic Varnam

タンジャヴール / インド / 南アジア · 1750年〜

カルナータカ音楽の教則的・舞踊的曲形式。

どんな音か

ヴァルナムは演奏家がコンサートや舞踊の冒頭に配置する構造的な練習曲であり、かつ完全な音楽作品でもある。「プールヴァーンガ(前半)」と「ウッタラーンガ(後半)」に分かれ、前半は歌詞とスワラ(音名)を交互に歌い、後半はより速くなって技巧的なスワラのパッセージが展開する。速度が段階的に上がるため、演奏家の体が音楽に乗っていく過程を音で聴けるような感覚がある。ムリダンガムのリズムも曲の進行に合わせて密度が高まり、終盤では声と太鼓が競争するような緊張感が生まれる。舞踊(バラタナーティヤム)では開幕演目として位置づけられており、踊り手のウォーミングアップという意味合いも持つ。

生まれた背景

ヴァルナムの形式が確立されたのはおおよそ18〜19世紀で、カルナータカ音楽の体系化と並行して進んだ。名称は「色・描写」を意味するサンスクリット語に由来するとされ、特定のラーガの音階的特徴を余すところなく「描写」するよう設計されている。現在も南インドの音楽学校(カレッジ)の教育課程では、クリティを学ぶ前にヴァルナムを徹底的に練習することが基本とされており、演奏家の技術的な完成度を試す試金石として機能している。

聴きどころ

前半の歌詞とスワラの交替に注目する。スワラの部分は「サ・リ・ガ・マ・パ・ダ・ニ」の7音をさまざまな組み合わせで歌い上げるが、これが旋律として聴こえるか音名の羅列に聴こえるかは習熟度によって変わってくる。速度が上がる後半でヴォーカルの声の粒がどれだけ均一に保たれているかも、演奏家の技量が端的に現れる。『Viriboni Varnam』(M.バーラムラリクリシュナ)はバイラヴィー・ラーガを使った人気曲で、このラーガが持つ哀愁と親密さを感じ取ることができる。

発展

20世紀には音楽教育の標準カリキュラムに組み込まれ、すべての学習者が必修として学ぶ。バーラタナーティヤム舞踊の長尺曲としても重要で、踊り手の技量を示すパダ・ヴァルナムが特に著名。

出来事

  • 18世紀: アディヤッパッヤによる体系化。
  • 19世紀: タンジャヴール・クァルテットの作品群。
  • 1930年: ルクミニ・デーヴィー・アルンダーレが舞踊復興。
  • 1981年: 全インド音楽会議のヴァルナム規範化。
  • 2010年代: 学校教育への普及。

派生・影響

カルナータカ古典学習の入口、舞踊曲としての発展、現代のフュージョン作品の素材として用いられる。

音楽的特徴

楽器声、ヴィーナ、ヴァイオリン、ムリダンガム、ナットゥヴァナル(舞踊指揮)

リズムターラの厳格な構成、ラーガの完全な提示、舞踊振付の基盤

代表曲

日本との関係

インド音楽や舞踊を学ぶ日本人の間では、ヴァルナムは基礎練習として知られているが、コンサートで独立して紹介されることはほとんどなく、日本の一般的な聴衆に届く機会は少ない。

初めて聴くなら

M.バーラムラリクリシュナの『Viriboni Varnam』(1990年)から聴き始め、バイラヴィー・ラーガの音階的な色合いに慣れてから後半のスワラの加速を楽しむとよい。まず最初の数分だけ繰り返し聴いてテンポ感を体に入れてから、通しで聴くという順番がわかりやすい。

豆知識

ヴァルナム」の作曲は特定の作曲家への帰属が不明確な場合が多く、師から弟子へ口承で伝えられながら変化してきた曲も少なくない。舞踊家がヴァルナムを踊るとき、歌詞の部分では「アビナヤ(表情演技)」で物語を表現し、スワラの部分では純粋な足捌きに集中するという二刀流の身体技法が要求される。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1500年代1750年代ヴァルナムヴァルナムカルナーティック古典カルナーティック古典凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
ヴァルナムを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル

インド · 1750年前後 (±25年)

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