バロック組曲
舞曲楽章を連ねたバロック器楽形式。アルマンド‐クーラント‐サラバンド‐ジーグを基本とし、ガヴォットやメヌエットを挿入する。
どんな音か
バロック組曲は複数の舞曲楽章をつなげた器楽曲の形式で、一つ一つの楽章は特定の踊りのリズムを基礎に持つ。アルマンドは4拍子の落ち着いた歩みで始まり、クーラントは走るような3拍子、サラバンドは重く感傷的な3拍子、ジーグは跳ね回るような6拍子で締めくくる。テンポと性格がこれだけ変わるのに、同じ調性と関連する旋律素材でつながれているため、組曲全体として統一感がある。バッハのチェンバロやリュートのための組曲では、各楽章が最大限まで装飾され、即興の余地も含んだ豊かな音楽になっている。ヘンデルの管弦楽組曲は野外の演奏を前提に書かれており、トランペットや打楽器が加わって華やかな音の塊として届く。
生まれた背景
聴きどころ
バッハの「管弦楽組曲第3番 BWV 1068」の第2曲「アリア」(いわゆる「G線上のアリア」)は、バス声部が一定の歩みで進む中、上の旋律が長く伸びた歌い方で絡んでくる。バス声部だけを追ってみると、組曲の低声部の動き方の特徴がわかる。ジーグ楽章では、テンポが上がり跳ねるリズムが始まったとき、それが「踊り」として機能する身体性を意識してみる。バッハのパルティータでは各楽章に「フランス風序曲」「スカラムッシュとアルレキン」など装飾的な名前がつくことがあり、舞曲の形式がどこまで守られどこから自由になるかも面白い。
発展
フローベルガーが標準配列を定め、フランスのクープラン、ラモーが鍵盤組曲を芸術的頂点に押し上げた。バッハの3組(フランス、イギリス、パルティータ)と4つの管弦楽組曲(BWV1066-1069)、ヘンデルの「水上の音楽」「王宮の花火の音楽」(管弦楽組曲の代表)が伝統を集大成した。
出来事
- 1649: フローベルガー、組曲配列の整備
- 1717: クープラン「クラヴサン奏法」「クラヴサン組曲集」
- 1722: バッハ「フランス組曲」第1巻完成
- 1749: ヘンデル「王宮の花火の音楽」初演
派生・影響
古典派ディヴェルティメント・セレナーデ、ロマン派性格小品集、20世紀のラヴェル「クープランの墓」、ヒンデミットの新古典主義組曲などへ受け継がれた。
音楽的特徴
楽器鍵盤楽器、リュート、弦楽合奏、管弦合奏
リズム舞曲楽章の連結、二部形式
代表アーティスト
- フランソワ・クープラン
- ゲオルク・フィリップ・テレマン
- ヨハン・ゼバスティアン・バッハ
- ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル
- ジャン=フィリップ・ラモー
代表曲
- 王宮の花火の音楽 — ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル (1749)
- 水上の音楽 — ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル (1717)
- クラヴサン組曲集第3巻 — フランソワ・クープラン (1722)
- イギリス組曲第2番 イ短調 BWV 807 — ヨハン・ゼバスティアン・バッハ (1725)
- 管弦楽組曲第3番 BWV 1068 — ヨハン・ゼバスティアン・バッハ (1731)
日本との関係
バロック音楽は日本でも安定した愛好者を持ち、古楽器演奏(チェンバロ、バロック・ヴァイオリン)のグループも各地で活動している。バッハは「音楽の父」として学校教育でも登場し、組曲の概念は音楽の授業でも紹介される。2000年代以降の古楽ブームでヘレヴェッへ、ガーディナー、鈴木雅明(BCJ=バッハ・コレギウム・ジャパン)などの演奏が広まり、鈴木雅明率いるBCJは国際的にも高い評価を受けている。
初めて聴くなら
バッハの「管弦楽組曲第3番 BWV 1068」(1731年)はアリア(G線上のアリア)を含む最もよく知られた組曲で、バロックの管弦楽サウンドへの入口として最適。ヘンデルの「水上の音楽」(1717年)は野外で演奏することを想定した祝祭的な音楽で、バロックを「重い音楽」と思っている人の印象を変えてくれる。バッハのチェンバロ演奏を聴くなら「イギリス組曲第2番 イ短調 BWV 807」(1725年)のプレリュードから。
豆知識
バッハの「G線上のアリア」という通称は、バッハが書いた原曲(BWV 1068の第2曲)を19世紀のバイオリニスト・ヴィルヘルミが独奏バイオリン用に編曲した際、全音を低くしてG弦だけで弾けるようにしたことに由来する。つまり「G線上のアリア」はバッハ本人が付けた名称ではない。また、フランスの鍵盤音楽でクープランが書いた曲の表題(「神秘的なバリケード」「ティク・トク・ショク」など)はきわめて詩的・風刺的で、表題音楽の先駆けとも見なされている。
