古典

バロック組曲

Baroque Suite

西ヨーロッパ · 1620〜1760年

舞曲楽章を連ねたバロック器楽形式。アルマンド‐クーラント‐サラバンド‐ジーグを基本とし、ガヴォットやメヌエットを挿入する。

どんな音か

バロック組曲は複数の舞曲楽章をつなげた器楽曲の形式で、一つ一つの楽章は特定の踊りのリズムを基礎に持つ。アルマンドは4拍子の落ち着いた歩みで始まり、クーラントは走るような3拍子、サラバンドは重く感傷的な3拍子、ジーグは跳ね回るような6拍子で締めくくる。テンポと性格がこれだけ変わるのに、同じ調性と関連する旋律素材でつながれているため、組曲全体として統一感がある。バッハのチェンバロやリュートのための組曲では、各楽章が最大限まで装飾され、即興の余地も含んだ豊かな音楽になっている。ヘンデルの管弦楽組曲は野外の演奏を前提に書かれており、トランペットや打楽器が加わって華やかな音の塊として届く。

生まれた背景

組曲の形式は17世紀初頭から中盤にかけてフランスドイツで同時多発的に発展した。フランスのリュート音楽と鍵盤音楽の文化から「アルマンド—クーラント—サラバンド」という骨格が生まれ、それがドイツの作曲家に取り入れられ「ジーグ」が末尾に加わった。バッハの「イギリス組曲」「フランス組曲」「パルティータ」はこの形式の頂点とされるが、曲集名については諸説あり、バッハ自身が命名したかどうかは定かでない。ヘンデルの「水上の音楽」(1717年)はテムズ川上の国王行楽の際に演奏されたとされ、野外音楽として書かれた組曲の代表例だ。

聴きどころ

バッハの「管弦楽組曲第3番 BWV 1068」の第2曲「アリア」(いわゆる「G線上のアリア」)は、バス声部が一定の歩みで進む中、上の旋律が長く伸びた歌い方で絡んでくる。バス声部だけを追ってみると、組曲の低声部の動き方の特徴がわかる。ジーグ楽章では、テンポが上がり跳ねるリズムが始まったとき、それが「踊り」として機能する身体性を意識してみる。バッハのパルティータでは各楽章に「フランス風序曲」「スカラムッシュとアルレキン」など装飾的な名前がつくことがあり、舞曲の形式がどこまで守られどこから自由になるかも面白い。

発展

フローベルガーが標準配列を定め、フランスのクープラン、ラモーが鍵盤組曲を芸術的頂点に押し上げた。バッハの3組(フランス、イギリス、パルティータ)と4つの管弦楽組曲(BWV1066-1069)、ヘンデルの「水上の音楽」「王宮の花火の音楽」(管弦楽組曲の代表)が伝統を集大成した。

出来事

  • 1649: フローベルガー、組曲配列の整備
  • 1717: クープラン「クラヴサン奏法」「クラヴサン組曲集」
  • 1722: バッハ「フランス組曲」第1巻完成
  • 1749: ヘンデル「王宮の花火の音楽」初演

派生・影響

古典派ディヴェルティメント・セレナーデ、ロマン派性格小品集、20世紀のラヴェル「クープランの墓」、ヒンデミットの新古典主義組曲などへ受け継がれた。

音楽的特徴

楽器鍵盤楽器、リュート、弦楽合奏、管弦合奏

リズム舞曲楽章の連結、二部形式

代表アーティスト

  • フランソワ・クープランフランス · 1685年〜1733
  • ゲオルク・フィリップ・テレマンドイツ · 1700年〜1767
  • ヨハン・ゼバスティアン・バッハドイツ · 1703年〜1750
  • ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルドイツ/イギリス · 1705年〜1759
  • ジャン=フィリップ・ラモーフランス · 1722年〜1764

代表曲

日本との関係

バロック音楽は日本でも安定した愛好者を持ち、古楽器演奏(チェンバロ、バロック・ヴァイオリン)のグループも各地で活動している。バッハは「音楽の父」として学校教育でも登場し、組曲の概念は音楽の授業でも紹介される。2000年代以降の古楽ブームでヘレヴェッへ、ガーディナー、鈴木雅明(BCJ=バッハ・コレギウム・ジャパン)などの演奏が広まり、鈴木雅明率いるBCJは国際的にも高い評価を受けている。

初めて聴くなら

バッハの「管弦楽組曲第3番 BWV 1068」(1731年)はアリア(G線上のアリア)を含む最もよく知られた組曲で、バロックの管弦楽サウンドへの入口として最適。ヘンデルの「水上の音楽」(1717年)は野外で演奏することを想定した祝祭的な音楽で、バロックを「重い音楽」と思っている人の印象を変えてくれる。バッハのチェンバロ演奏を聴くなら「イギリス組曲第2番 イ短調 BWV 807」(1725年)のプレリュードから。

豆知識

バッハの「G線上のアリア」という通称は、バッハが書いた原曲(BWV 1068の第2曲)を19世紀のバイオリニスト・ヴィルヘルミが独奏バイオリン用に編曲した際、全音を低くしてG弦だけで弾けるようにしたことに由来する。つまり「G線上のアリア」はバッハ本人が付けた名称ではない。また、フランスの鍵盤音楽でクープランが書いた曲の表題(「神秘的なバリケード」「ティク・トク・ショク」など)はきわめて詩的・風刺的で、表題音楽の先駆けとも見なされている。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1620年代1750年代バロック組曲バロック組曲ソナタ(古典派)ソナタ(古典派)凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
バロック組曲を中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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