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伝統・民族

バンダ・シナロエンセ

Banda Sinaloense

シナロア州 / メキシコ / 南米 · 1885年〜

メキシコ北西部シナロア州の吹奏楽団形式で、トロンボーン・トランペット・スーザフォンを擁する大編成のバンダ音楽。

まずはここから

ひとことで言うとメキシコ北西部シナロア州の吹奏楽団形式で、トロンボーン・トランペット・スーザフォンを擁する大編成のバンダ音楽。

まずはこの曲からBanda Sinaloense El RecodoEl Sinaloense ▶ YouTube

代表的な人Banda Sinaloense El Recodo

どんな音か

バンダ・シナロエンセは、メキシコ北西部シナロア州を発祥地とする、12-20人の吹奏楽団形式の民俗ポピュラー音楽だ。編成はクラリネット、トランペット、トロンボーン、スーザフォン(管バス、通称トゥバ)、タンボーラ(円筒の両面太鼓)、タロラ(小型スネアドラム)、そしてリード歌手で構成される。ドイツの吹奏楽団(Blasmusik)の直系の子孫で、電子楽器を一切使わず、生の管楽器の音圧だけで踊れるダンス音楽を作る点が最大の特徴だ。テンポは110-160BPM、拍子はポルカ2/4(最頻)、ワルツ3/4、コリードの物語形式、ランチェラの3/4、そしてクンビアの2/4を扱う。歌手はしばしば楽団の前に一人で立ち、20人のホーンの音圧に対抗して声を張り上げる——このダイナミクスがバンダの最大の見せ場だ。

このジャンルを特徴づける代表的なリズムパターン。再生ボタンでループ再生し、下のリズム譜で今どの拍が鳴っているかを確認できます。

ポルカ · 130 BPM

聴きどころ

まずスーザフォン(トゥバ)の低音の跳ね方に耳を澄ませてほしい。ポルカ2/4の1拍目と3拍目に短く強く鳴らす「ボン、ボン」というリズムがバンダの土台で、これが人の体を踊る側に自然と傾ける原動力になっている。次にトロンボーンとトランペットの掛け合い——曲のリード旋律を交互に受け渡す構造で、これが吹奏楽団としての立体感を生む。歌唱面では、Julión Álvarezの『Y Así Fue』のように、20人のホーンの音圧を1本のマイクで押し返すバランス感覚が聴きどころだ。タンボーラの低音の「ドン」とタロラの高音の「タッ」の対比も、シナロアの街の広場の音の記憶をそのまま録音に閉じ込めている。

初めて聴くなら

最初はBanda El Recodoの『El Sinaloense』(1955)、バンダの原型的な熱気と型が3分に凝縮されている。次に彼らの1990年代以降の代表作『Y Llegaste Tú』(2006)、バラード寄りに拡張したバンダの現代形が聴ける。Julión Álvarezの『Y Así Fue』(2016)は21世紀のバンダ・ロマンティカの完成形。屋外のバーベキュー、家族の集まり、あるいはメキシコ料理店で友人と一緒に、が本来の聴き方だ。決してヘッドホンで一人で聴く音楽ではなく、「他人と一緒に踊るための音」がバンダの本質だ。

代表アーティスト

  • Banda Sinaloense El Recodoメキシコ · 1938年〜

代表曲

生まれた背景

起源は19世紀末のシナロア州マサトラン港で、当時この地域に流入したドイツ・オランダ・チェコ系移民が持ち込んだ吹奏楽団(ミリタリー・バンド、ダンス・ホール・バンド)の編成を、シナロアの労働者と農民が独自に取り入れた。決定的な楽団が1938年、シナロア州エル・レコード村でクルス・リサラガ(Cruz Lizárraga)が創設したBanda El Recodoで、彼らは「世界で最も古いバンダ(La Madre de Todas las Bandas)」の通称で知られる。

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1950年代までは地域限定の民俗音楽だったが、1990年代のメキシコ北西部と米国南西部のメキシコ系市場の拡大に伴い、バンダは急速に汎メキシコ・汎米移民の音楽となり、ビルボード・レヒオナル・メヒカーノ・チャートの中軸ジャンルとなった。1990年代以降、Banda El Recodo(2代目リーダー・アルフォンソ・リサラガの下)、Banda El Limón(1979結成)、Julión Álvarez(2007結成)、Espinoza Paz(2004活動開始)がジャンルの担い手となり、ラブソング寄りのバラードから、ナルコ・コリードを取り込んだ論争的な曲まで幅広い題材を扱うようになった。並行してテクノ・バンダ(1990年代初頭、電子音を部分的に加えたバンダ)、バンダ・ロマンティカ(1990年代末以降のバラード中心のサブジャンル)といった分派が生まれた。シナロア州は麻薬カルテル「シナロア・カルテル」(1980年代以降活動)の本拠地であり、バンダとナルコ経済の距離の近さが、ジャンルに独特の緊張感を与え続けている。

音楽的特徴の詳細

楽器クラリネット、トランペット、トロンボーン、スーザフォン、タンボーラ、声

リズムポルカ2/4、ワルツ3/4、ランチェラ、コリード

発展

1990年代エル・レコド・デ・クルス・リサラガ、バンダ・エル・リミテが商業的に大成功し、2000年代以降米国メキシコ系コミュニティを軸にビルボード・ラテン・チャートの主役の一つとなった。ヘラルド・オルティスら若手はナルコ・コリード論争を抱えつつも商業的に強い。

出来事

  • 1885: マサトランで初期バンダ
  • 1945: クルス・リサラガがバンダ・エル・レコド創設
  • 1995: バンダ・エル・リミテ全国制覇
  • 2014: ヘラルド・オルティス論争

派生・影響

ノルテーニョ、ランチェラ、テクノ・バンダ、レゲトンと交差。

日本との関係

日本でのバンダの認知はほぼゼロに近いが、埼玉県川口市、群馬県大泉町、愛知県豊田市など、日系ブラジル人と並んでメキシコ移民労働者が集住する地域では、地元コミュニティのお祭りでバンダの生演奏が行われることがある。愛知県のメキシコ人労働者コミュニティが1990年代に組んだ「Banda La Michoacana Japón」の記録が残る。国内向け商業音楽としての流通はほぼ無いが、YouTubeとSpotifyの拡大で若年層のラテン音楽好きにはBanda El Recodoの名は認知されつつある。

豆知識

Banda El Recodoは1938年の創設以来、80年以上「同じ楽団」として活動を続けているが、メンバーは何度も入れ替わっており、現在まで数百人のミュージシャンが在籍してきた。この「楽団としての永続性」はメキシコ音楽史上ほぼ唯一の現象だ。

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バンダの編成に電子楽器を一切使わない伝統は、1990年代のテクノ・バンダの一時的な流行を経ても、本流のバンダ・シナロエンセでは今も守られている。トゥバ奏者は職業奏者の中でも身体的負担が最も大きい役割で、彼らの平均的な現役年齢は40代前半までとされる——20キロ近いスーザフォンを1晩4-5時間持ち続けるからだ。

影響・派生で結ばれたジャンル

系譜図を見る
バンダ・シナロエンセを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

バンダ・シナロエンセ の系譜全体図(多段)を見る

感触が近い系譜も地域も違うのに、聴くと通じるジャンル

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