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伝統・民族

アイヌ・ウポポ

Ainu Upopo

北海道(阿寒湖・二風谷・平取・釧路・様似) / 日本 / 東アジア · 1500年〜

別名: Upopo / Ainu women's group song

アイヌの女性による座り歌ウポポ。ムックリ・トンコリと共にアイヌ音楽の核を成す集団歌唱。

どんな音か

アイヌ・ウポポは、北海道・樺太・千島列島のアイヌ諸族が継承する座り歌の集団歌唱で、伝統的には女性が中心的な担い手である。演唱は3-8人の輪座で、円陣中央に鍋蓋や桶(nima)を伏せ、そこを掌で叩いてリズムを取りながら、リード歌手が短いフレーズを歌い、残りの歌手が円環的に順次追随するカノン形式で歌う。テンポは中速、旋律線は3-5音の限定音階、詩は神(kamuy)と自然への呼びかけ・労働の記憶・遊びの言葉で構成される。既存slug`ainu-music`が座り歌ウポポ+踊り歌リムセ+神謡カムイユカラ+英雄叙事詩ユカラ+トンコリ器楽までを含む総合的なジャンル項目であるのに対し、この項目はウポポ(座り歌)の集団歌唱様式と、女性による伝承の系譜に焦点を当てる。

生まれた背景

アイヌ諸族は北海道・樺太・千島列島の先住民族で、狩猟採集を基盤とする社会を営み、集団歌唱は共同体儀礼と日常労働の両方に不可分に組み込まれていた。ウポポは女性が円座で歌うのが本来の形で、家事労働(食物の準備、子守り)の中で自然に発生し、その後に儀礼の場でも歌われる二重の性格を持つ。20世紀前半の同化政策下でアイヌ語話者は急激に減少し、ウポポの伝承は少数の年長者に集中する危機に瀕したが、白老・二風谷・釧路など各地の少数の担い手が継承を絶やさなかった。特にChikappu Miekoの千歳市での伝承活動、Umeko Ando(1932-2004、Oki Kanoの母)の平取での家庭内継承が20世紀後半の危機期を橋渡しした。

聴きどころ

まず円環カノンの構造に耳を澄ませてほしい。リード歌手が2-4拍の短いフレーズを歌い、次の歌手が同じフレーズを1-2拍遅れで追いかけ、その次が更に遅れて、と円環的に重ねる。この重なり方が単なるユニゾンでもハーモニーでもない、ウポポ固有の「輪唱でありながら同時に打楽器的」な音場を生む。中央に伏せられたnima(鍋蓋)を掌で叩く低音がリズムの骨格を刻み、そこに3-5音の限定音階の旋律が重なる。Umeko Ando『Ihunke』(2001、Tonkori Records)はこの構造をスタジオ録音で分離した好例で、彼女の透明な声と若い世代の伴奏が世代間伝承の様相を可聴化する。Marewrew(2003結成)の楽曲では、この円環カノンが4人の女性ボーカルで現代的に再構築されている。

発展

1990年代以降のアイヌ文化復興運動の中で、女性ウポポの継承活動が活性化した。決定的な担い手となったのがMarewrew(2003年結成、メンバーはMayunkiki、Rekpo、Hisae、Mika)で、彼女たちはトンコリ奏者OKI(Oki Kano)のTonkori Recordsから2010年以降複数のアルバムを発表、ウポポの円環カノン様式を保ったまま現代的な録音で世界に届けた。同時代の姉妹デュオKapiw & Apappo(Kapiw Kanoは白老在住のアイヌ語話者)、そしてUmeko Andoの遺した2001年の代表作『Ihunke』は、ウポポの音源として現在最も広く聴かれる基盤になっている。

出来事

  • 1500s以降: ウポポ伝承
  • 1901: 白老アイヌ集落での初期録音(Landor)
  • 1923: 知里幸恵『アイヌ神謡集』(ウポポ含む)刊行
  • 2001: Umeko Ando『Ihunke』
  • 2003: Marewrew結成
  • 2020: ウポポイ(民族共生象徴空間)開業

派生・影響

既存slug`ainu-music`(アイヌ音楽総合)の女性集団歌唱側面。ロシア・シベリア諸民族の輪唱伝統、樺太ニヴフ・ウィルタの歌唱伝統と地理的隣接。北方ユーラシア狩猟採集民の集団歌唱ネットワークの一環。

音楽的特徴

楽器無楽器(手拍子、nima=伏せた鍋蓋を掌で叩く)、時にムックリ(口琴)、時にトンコリ(五弦琴)、女性集団歌唱

リズム中速の反復リズム、リード+集団応答のカノン形式、3-5音の限定音階、詩の反復と円環的な音の重ね合わせ

代表アーティスト

  • Chikappu Mieko日本 · 1970年〜2010
  • Umeko Ando日本 · 1980年〜2004
  • Marewrew日本 · 2003年〜

代表曲

その後の代表曲

日本との関係

アイヌ・ウポポ日本の音楽文化の一部として、本土の一般聴衆にとっては比較的近年になって可視化されるようになった。1997年のアイヌ文化振興法成立、2008年のアイヌ民族を先住民族とする国会決議、2020年の白老「ウポポイ」(民族共生象徴空間)開業を経て、ウポポは日本の公的な文化政策の対象として位置付けられた。ただし本土の一般聴衆にとって最も広く知られているのはOKI Dub Ainu Bandのトンコリ音楽であり、ウポポそのものは知名度で一段落ちる。Marewrew経由でウポポに触れる若い聴衆が近年増えつつある段階にある。

初めて聴くなら

最初はUmeko Ando『Ihunke』(2001、Tonkori Records)、伝統派の代表的な録音。彼女の透明で年季の入った声質と、OKI Kanoが伴奏を務めた若い世代の器楽伴奏の対話が、世代間伝承を可聴化する。次にMarewrewの各アルバム(2010年以降にTonkori Recordsから発表)、現代女性ボーカル・ユニットによる円環カノンの再構築が聴ける。学術的な参照点としては、Kindaichi Kyosukeらの1920-30年代の録音アーカイヴ(北海道大学附属図書館所蔵)、そして知里幸恵『アイヌ神謡集』(1923)の岩波文庫版が背景の詩世界への入り口として重要。

豆知識

「upopo」はアイヌ語で「座り歌」を意味する語で、踊り歌rimseと対比される。ウポポの円環カノン様式は、東北アジアの狩猟採集民の集団歌唱に共通する古い形式で、ロシア極東のニヴフ、ウィルタなど樺太の少数民族の歌唱伝統と系統的な連続性を持つと考えられている。Umeko AndoはOki Kano(OKI Dub Ainu Band)の母で、彼女の晩年の録音『Ihunke』はOkiが息子として母を録音するという世代間伝承の実践そのものだった。Marewrewの4人のメンバー(Mayunkiki、Rekpo、Hisae、Mika)は全員がアイヌ・アイデンティティを公言する伝承者であり、ウポポの現代化を「復興」ではなく「継続」として提示している。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1500年代アイヌ・ウポポアイヌ・ウポポアイヌ音楽アイヌ音楽琉球民謡琉球民謡凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
アイヌ・ウポポを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

アイヌ・ウポポ の系譜全体図(多段)を見る