伝統・民族

メズーエド

Mezoued

チュニジア / 北アフリカ · 1900年〜

チュニジアのバグパイプ「メズーエド」を主役にした、農村起源の民衆ダンス音楽。

どんな音か

チュニジアの民衆バグパイプ「メズーエド」は、ヤギの皮袋を空気溜めにし、二本の葦のパイプから音を出す。高く鼻にかかったような持続音が出て、音量のオンオフができないため常に鳴り続ける。その上に歌い手が叫ぶように声を乗せ、太鼓「ダルブーカ」と小型のバスドラム「ベンデール」が激しいポリリズムを刻む。テンポは速く、ダンスを引き出すことが目的の音楽なので止まらない。歌詞はアラビア語のチュニジア方言で、恋愛・生活・フォークユーモアを混ぜた内容が多い。都市の結婚式ではまず正式な音楽が演奏され、メズーエドはその後に「はじけるフロア音楽」として入ってくることが多い。

生まれた背景

農村部のベルベル・アラブ混合文化から生まれたとされ、起源はオスマン統治時代よりも前にさかのぼる可能性があるが、口承に依存してきたため詳細な記録は少ない。20世紀に入り、カセットテープ文化と都市部への農村人口の移動によってチュニスの労働者街に広まった。エリート層からは「下品な農村音楽」と見下されてきた歴史があるが、1990年代以降の民主化運動や文化多元主義の議論のなかで再評価されるようになった。Hedi Habbouba は都市出身の若い世代にこの音楽を届けた人物として知られる。

聴きどころ

バグパイプ特有の「常に鳴り続ける」持続音と、太鼓の刻むリズムの交点を聴くのがポイント。バグパイプは旋律を演奏しながら背景音として機能するため、歌がその上にどう乗るかに耳を向けると構造がわかりやすい。ダルブーカとベンデールのリズムが2つのパターンを同時に刻む箇所では、足と手で別々に追ってみると複数層が聴こえてくる。

発展

1990年代にヘディ・ハベバ、サミール・ロカーが録音文化を確立し、結婚式産業の必須サウンドとなった。21世紀にはメズーエド・ラップやエレクトロ・メズーエドの試みも現れ、低俗扱いだったジャンルが現代音楽の素材として再評価されている。

出来事

  • 1972: 国営テレビでの放送制限
  • 1985: サミール・ロカー全盛期
  • 2011: アラブ春で街頭再評価
  • 2019: メズーエド・エレクトロ実験

派生・影響

アンダルシア古典、シャアビ、ライ、現代チュニジア・ヒップホップと交差。

音楽的特徴

楽器メズーエド、ダルブッカ、ベンディール、シェケレ、声

リズム高速6/8、袋笛のドローン、コール&レスポンス

代表アーティスト

  • Noureddine El Kahlaouiチュニジア · 1965年〜
  • Salah Farzitチュニジア · 1970年〜
  • Hedi Habboubaチュニジア · 1980年〜

代表曲

日本との関係

日本ではほとんど知られていない。バグパイプというとスコットランドのものが一般的なイメージで、北アフリカのバグパイプ文化が紹介されることは少ない。チュニジア音楽全般への関心もアラブ音楽のなかでは周辺的な位置にある。

初めて聴くなら

Hedi Habbouba の「Khallini Nebki」(1995年)から入るとよい。メズーエドの音と太鼓のリズム、歌い手の声の三つ巴が比較的クリアに録音されており、各要素が聴き取りやすい。

豆知識

チュニジアのメズーエドは「スタンブーリ」という降霊・治癒儀礼の音楽とも深く結びついており、演奏が続く中でトランス状態に入る参加者が出ることがある。現代の結婚式では宗教的な文脈は失われてダンス音楽として機能しているが、農村部の儀礼ではその側面が今も残っているとされる。

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