サバール
セネガル・ウォロフ族の手叩き太鼓合奏。ンバラックスの下敷きになった多層リズム。
どんな音か
サバールは、セネガル・ウォロフ族の職能カースト(griot / géwël)が数世紀にわたり継承してきた手叩き太鼓の合奏だ。片面の山羊皮を上端にペグで張った独特の構造の太鼓群は、リード奏者のnderと、下から複層のポリリズムを支えるmbëng-mbëng、gorong、col、talmbatの役割分担を持つ。奏者は先の細い木のバチと素手を併用し、旋律的なリード・ソロbákkと、繰り返し打ち続けるベース・パターンを行き来する。テンポは中〜高速、拍節は12/8と4/4の間を伸縮するが、実際の演奏では拍の外で「破れ」が入り、それをダンサーの跳躍と交互に受け渡す構造だ。ダカール近郊の婚礼、命名式、伝統相撲laambの前座がサバールの本来の場になる。
生まれた背景
サバールの起源は15世紀頃までにウォロフ族géwël(グリオ)のカーストが継承する太鼓合奏として確立していたと考えられている。ウォロフ王権下では儀礼、軍事、社交の道具として叩かれ、王の登位や戦の招集にも用いられた。植民地化後もダカール郊外集落の婚礼と命名式(ngentay)を中心にコミュニティ音楽として生き続け、20世紀後半にはDoudou N'Diaye Rose(1930-2015)がサバールを近代的な舞台音楽としてオーケストラ化した。Roseは大人数(50-100人規模)のサバール・オーケストラを組織し、1994年『Djabote』を含む録音群とヨーロッパ音楽祭でのライヴでサバールを国際化、UNESCOにより「世界の生きた宝」に指定された。
聴きどころ
まずリード奏者(nder)のbákkに耳を集中してほしい。これはサバールにおける「旋律的即興ソロ」で、右手の素手と左手のバチが速い連打で交錯する。次にリズムの層で、mbëng-mbëngが4分刻みのベースを、gorongが8分の裏拍を、colとtalmbatが3-2感覚のシンコペーションを打ち、これらが同時に鳴る。Doudou N'Diaye Rose『Djabote』(1994)では、この重層構造が録音技術で明瞭に分離されて聴ける。もう一つの聴きどころは「拍を破る」瞬間で、リード奏者が意図的に拍節から外れたブレイクを入れ、それを合図にダンサーが跳躍する。ライヴではその瞬間に観客が歓声を上げる。
発展
1930-40年代生まれのDoudou N'Diaye Rose(1930-2015、サンルイ生)がサバールを近代的な舞台音楽としてオーケストラ化し、大人数(50-100人規模)のサバール・オーケストラでヨーロッパ各地の音楽祭に出演、1994年の代表盤『Djabote』で世界の耳に届けた。同時期に成立したmbalax(Youssou N'Dour、Baaba Maal)は、サバールのリズム語彙をエレクトリック・ベース+ホーンセクションと結合したもので、サバールなしにmbalaxは成立しない。Roseの死後は娘のAida N'Diaye Roseらを中心とする継承世代がオーケストラを引き継いでいる。
出来事
- 1400s: ウォロフgéwëlによる成立
- 1970s: Doudou N'Diaye Roseのオーケストラ化
- 1994: Doudou N'Diaye Rose『Djabote』
- 2003: UNESCO「サバール」がセネガル無形文化財に指定
- 2015: Doudou N'Diaye Rose死去
派生・影響
mbalaxの直接の親、tama(トーキング・ドラム)音楽と兄弟関係。西アフリカ全域の太鼓オーケストラの型に影響。
音楽的特徴
楽器サバール太鼓(nder、mbëng-mbëng、gorong、col、talmbat)、tama(トーキング・ドラム)、時にxalam(リュート)、リード歌手、集団合唱、拍手
リズム12/8と4/4の伸縮するポリリズム、bákkと呼ばれるリード・ソロの旋律的即興、拍の外で「破る」ブレーク、ダンサーとの応答構造
代表アーティスト
- Doudou N'Diaye Rose
- Mansour Seck
- Aida N'Diaye Rose
- Latyr Sy
代表曲
Djabote — Doudou N'Diaye Rose (1994)
N'Der Fouta Tooro Vol. 1 — Mansour Seck (1994)
Bakalama — Doudou N'Diaye Rose (1998)
Sabar Wolof — Doudou N'Diaye Rose (2004)
その後の代表曲
Les Rosettes — Aida N'Diaye Rose (2010)
Sabar Nihon — Latyr Sy (2010)
