京劇
清代に北京で成立した、中国を代表する伝統歌劇。
どんな音か
声の種類(行当、ハンダン)が役の性格を決める。生(シェン、男役)、旦(ダン、女役)、浄(ジン、豪快な性格の男役で顔に複雑な隈取り)、丑(チョウ、道化役)の4系統があり、それぞれ音域・発声・所作が完全に別個の訓練体系を持つ。歌は「西皮(シーピー)」と「二黄(アルファン)」という2つの旋律系統を軸に組み立てられ、テンポの速い「流水(リウスイ)」や「快板(クァイバン)」から緩やかな「慢板(マンバン)」まで拍子の種類で感情を切り替える。伴奏の中心は京胡(ジンフー、二胡の一種で高い音域)と打楽器で、銅鑼や拍板が場面の転換を知らせる。
生まれた背景
聴きどころ
「覇王別姫」の虞姫の剣舞の場面では、旦役の歌声が京胡と絡み合いながら感情的な高まりを作る。旦の声は男性が女性を演じる(梅蘭芳自身も男性)高音の裏声で、その声質の「人工的な美しさ」に耳を慣らすことが京劇鑑賞の最初の関門だ。打楽器が「ドン、ツン、ダン」とリズムを変えながら場面転換を告げる——この打楽器の音型を覚えると、いつ次の段落が始まるかがわかるようになる。
発展
20世紀前半、梅蘭芳・程硯秋・尚小雲・荀慧生の『四大名旦』が女形芸を芸術として完成させた。1930年代の梅蘭芳訪米・訪ソ公演で国際的評価を得て、ブレヒトの叙事演劇にも影響を与えた。文化大革命期に革命模範劇に再編されたが、改革開放後に古典演目が復興した。
出来事
- 1790年: 四大徽班の北京入り。
- 1845年: 程長庚らによる京劇様式の確立。
- 1930年: 梅蘭芳訪米公演。
- 1964年: 革命現代京劇『紅灯記』。
- 2010年: 京劇がユネスコ無形文化遺産代表一覧表に登録。
派生・影響
中国全土の地方戯曲(漢劇・粵劇など)との相互影響を通じ、中国伝統劇の規範となった。海外華人社会・西洋現代演劇にも広範な影響を残した。
音楽的特徴
楽器京胡、月琴、二胡、板鼓、大鑼、小鑼、鐃鈸、声
リズム西皮・二黄の二大声腔、板眼(拍子)体系、念白と歌の交替
代表アーティスト
- 梅蘭芳
- 程硯秋
代表曲
覇王別姫 — 梅蘭芳 (1922)
日本との関係
初めて聴くなら
梅蘭芳の「覇王別姫」の録音(1920〜30年代のものが現存する)を映像と合わせて観ると、声と動きの対応関係がつかみやすい。ただし古い録音は音質が限られるため、現代の梅派の継承者(たとえば李勝素など)の映像録音を先に観て、その後に梅蘭芳本人の録音と比較するのが理解の近道だ。
豆知識
陳凱歌監督の映画「覇王別姫」(1993年)は京劇俳優の人生をテーマにした作品で、カンヌ映画祭パルム・ドールを受賞し、国際的に京劇の存在を広めた。この映画の主人公が演じる「虞姫」の場面は、梅蘭芳の解釈に基づいており、映画と伝統芸能の関係を考える上で興味深い事例だ。
