オペラ・ブッファ
18世紀イタリアの喜歌劇。市民的日常と滑稽な人物像を題材に、軽妙なアリアと重唱で展開する。
どんな音か
オペラ・セリアと対をなす「喜劇オペラ」。庶民や使用人が主役で、結婚詐欺や勘違いの恋愛を題材にする。アリアより重唱(2〜6人が同時に違うことを歌う「アンサンブル」)が多用され、フィナーレでは登場人物全員が舞台に集まって混乱が頂点に達する。レチタティーヴォはセコ(チェンバロのみ)とアコンパニャート(弦楽伴奏付き)を使い分ける。テンポはセリアより速く、メロディも口ずさみやすい。
生まれた背景
聴きどころ
アンサンブル(重唱)で複数の登場人物が違う気持ちを同時に歌うところ。たとえば『フィガロの結婚』第2幕のフィナーレは、20分以上にわたって登場人物が次々と現れ、最終的に7人が同時に歌う。セリアのような立ち止まる長尺アリアより、会話と歌が連続して流れる劇のテンポを感じてほしい。
発展
ペルゴレージの後、ガルッピ、ピッチンニ、パイジエッロらナポリ・ヴェネツィア派が確立し、モーツァルト=ダ・ポンテの3作(「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「コジ・ファン・トゥッテ」)で文学的・心理的深さを獲得した。19世紀にはロッシーニ「セビリアの理髪師」、ドニゼッティ「愛の妙薬」が伝統を継承した。
出来事
- 1733: ペルゴレージ「奥様女中」初演
- 1786: モーツァルト「フィガロの結婚」初演
- 1816: ロッシーニ「セビリアの理髪師」初演
- 1893: ヴェルディ「ファルスタッフ」初演
派生・影響
ロッシーニ・ドニゼッティ・ヴェルディ初期のコミック・オペラ、ヴェルディ最後の「ファルスタッフ」(1893)まで脈々と続く。プッチーニの「ジャンニ・スキッキ」もこの伝統の延長線上にある。
音楽的特徴
楽器独唱、合唱、管弦楽
リズムレチタティーヴォ・セッコ、アンサンブル・フィナーレ
代表アーティスト
- ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
- ジョアキーノ・ロッシーニ
- ジュゼッペ・ヴェルディ
代表曲
- ドン・ジョヴァンニ K. 527 — ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト (1787)
- 奥様女中 (1733)
- フィガロの結婚 K. 492 — ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト (1786)
- セビリアの理髪師 — ジョアキーノ・ロッシーニ (1816)
- ファルスタッフ — ジュゼッペ・ヴェルディ (1893)
日本との関係
戦後、二期会、藤原歌劇団が『フィガロの結婚』『セビリアの理髪師』を定番演目として上演し続けてきた。新国立劇場の開場(1997)以後はダ・ポンテ三部作の上演が増え、字幕付きで親しみやすい入口になっている。
初めて聴くなら
1作だけ観るなら、モーツァルト『フィガロの結婚』(1786)。序曲のテンポ感だけで世界が決まる。短く入りたいなら、ロッシーニ『セビリアの理髪師』の「私は街の何でも屋(Largo al factotum)」。バリトンの早口が圧巻。
豆知識
モーツァルト『コジ・ファン・トゥッテ』は19世紀には「不道徳」とされて改変上演が続き、原作通りに復活したのは20世紀に入ってから。日本語訳「女はみんなこうしたもの」は本来「女は皆そうする」というニュアンスで、人類普遍の弱さを諷した題名。
