伝統・民族

ヌビア音楽

Nubian Music

エジプト/スーダン / 北アフリカ · -1500年〜

ナイル川上流の古代ヌビア人(現エジプト・スーダン国境地帯)に伝わる、独特のヌビア語旋律と五音音階を保持する民族音楽。

どんな音か

ヌビア語の歌詞が特徴で、メロディには五音音階(ペンタトニック)の傾向が見られる。テンポは中速から遅く、ロマンティックな雰囲気が支配的。楽器は 'oud(ウード)、パーカッション、ときどきホルンなど中東音楽の標準的なものが使われるが、ヌビア独特の音色をしている。ボーカルは民族的で、音程のゆらぎが表現力の中核。スタジオ録音では、この独特の民族的響きが最大限に活かされる。

生まれた背景

ヌビアはナイル川上流の古代帝国で、その音楽伝統は数千年の深さを持つ。イスラム化後も、ヌビア語の歌唱伝統は保持され、特にエジプト・スーダン国境地帯で継続している。20 世紀には、アスワンハイダムの建設によるヌビア人の強制移住が起こり、その結果、ヌビア文化はさらに危機に瀕した。しかし同時に、ヌビア音楽への文化的自覚が高まり、国際的な保護対象となった。

聴きどころ

ヌビア語の独特な音韻と、その歌い方。五音音階が作り出す旋法的な雰囲気。ボーカルの音程のゆらぎと、その表現的意味。ウードなどの楽器の音色。古代ヌビアと現代が共存する音楽的質感。

発展

1970年代以降、ハムザ・エル・ディン(ウード奏者)が国際舞台に登場し、グレイトフル・デッドや実験音楽家とも交流した。続くアリ・ハッサン・クバン、モハメド・ムーニル(エジプト国民的ヌビア人歌手)が大衆化を進め、世界音楽の文脈で重要な位置を占めるようになった。

出来事

  • 1964: アスワン・ハイダム着工で水没開始
  • 1971: ハムザ・エル・ディン国際デビュー
  • 1977: モハメド・ムーニル『アラブ・カル・サナ』
  • 2010: ヌビア語復興運動

派生・影響

アラブ・タラブ、エチオピアの音階、アフロ・ファンク、ハミルトン・ジャズ・フュージョンと交差。

音楽的特徴

楽器タール、リク、シミシヤ、ウード、声

リズム五音音階、4/4と6/8の交替、ヌビア語

代表アーティスト

  • Hamza El Dinエジプト/スーダン · 1964年〜2006
  • Mohamed Mounirエジプト · 1977年〜

代表曲

  • EscalayHamza El Din (1971)
  • Allemny Ya MounirMohamed Mounir (1981)

日本との関係

ヌビア音楽日本で知られるようになったのは、1970 年代から 1980 年代のワールドミュージック・ブーム期。Hamza El Din がニューエイジ・アーティストとしても活動し、一定の認知を得た。しかし、主流音楽市場での位置づけは確立されず、民族音楽マニアや北アフリカ・中東音楽への関心層に限定されている。

初めて聴くなら

Hamza El Din『Escalay』(1971)。ウードとボーカルの対話が美しく、ヌビア音楽の普遍性が感じられる。より民族音楽的なアプローチなら、Mohamed Mounir『Allemny Ya Mounir』(1981)。エジプト・ポップ的な現代性が加わりながらも、ヌビアの音の根は失われていない。

豆知識

ヌビアは古代エジプトとしばしば対比される独立した帝国で、ヌビア王朝(クシュ王朝)はエジプト新王国より後に栄えた。ヌビア人は『黒い肌の人々』を意味するギリシャ語が語源で、20 世紀のアフリカ系文化運動の中で、ヌビア音楽は古代アフリカ的アイデンティティの象徴となった。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図-1500年代1920年代ヌビア音楽ヌビア音楽エジプト古典(ウンム・クルスーム時代)エジプト古典(ウンム・クルスーム時代)凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
ヌビア音楽を中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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