古典

ニャック・タイトゥ

Nhạc Tài Tử

メコン・デルタ / ベトナム / 東南アジア · 1880年〜

別名: ベトナム南部室内楽

ベトナム南部のアマチュア室内楽。古典宮廷音楽の南部展開。

どんな音か

ニャック・タイトゥは編成が流動的で、5〜10名程度の楽器奏者と歌手が参加する。使用される楽器は琵琶、杖鼓(つえこ)、月琴など中国由来のものが多い。全体のテンポはゆっくりで、各楽器が自由に装飾を加える即興性を持つ。ドローン弦が基音を提供し、その上で旋律楽器が絡む。歌唱は穏やかで、器楽の輝かしさと対比する。録音技術の関係で、多くの音源は静寂に近い環境で録音されており、細微な音響まで聞き取ることができる。

生まれた背景

ニャック・タイトゥベトナム南部のアマチュア音楽愛好家により担われ、家庭での演奏や小規模な集会が主な舞台である。原型は中国宮廷音楽だが、ベトナムへの南下とともに南部独自の様式に発展した。フランス植民地時代を経て、ベトナム戦争、戦後の社会主義化など激動の時代を経験したが、家庭音楽という性質ゆえに継続してきた。現在、文化的価値の再認識と演奏人口の増加が同時に起こっている。

聴きどころ

複数の楽器がどのようにボーカルと相互作用するか。各楽器が全く異なるリズムを演奏しているように聞こえながらも、実際には微妙な調和が成立していること。静寂と音の配置。器楽間の音色のコントラスト。

発展

20世紀前半に紙幣変更の中で都市知識人のサロン音楽として広まり、戦後の南北分裂期にも継承された。改革開放後の1990年代以降にユネスコ調査が進み、2013年に無形文化遺産登録された。

出来事

  • 1860年代: 阮朝音楽家の南遷。
  • 1900年代: 都市サロン音楽として確立。
  • 1917年: カイ・リュン(改良劇)初演。
  • 1986年: ドイモイ政策で文化復興。
  • 2013年: ユネスコ無形文化遺産代表一覧表に登録。

派生・影響

カイ・リュン(改良劇)の音楽的母体、現代ベトナム室内楽創作、海外ベトナム人コミュニティ(米国カリフォルニア)の文化アイデンティティの一翼。

音楽的特徴

楽器ダン・キム、ダン・トラン、ダン・ニ、ダン・バウ、ダン・コー、声

リズム南部独自旋法(オアン・ナム)、即興的合奏、20の祖曲レパートリー

代表アーティスト

  • Trịnh Công Sơnベトナム · 1958年〜2001
  • Khánh Lyベトナム · 1962年〜

代表曲

日本との関係

ニャック・タイトゥ日本ではほぼ知られていない。ベトナム音楽への関心自体が薄く、ベトナム戦争関連の歴史や現代の経済交流はあっても、伝統音楽への学術的・一般的な関心は非常に限定的である。

初めて聴くなら

『Da Co Hoai Lang』伝統的な演奏版(複数の録音がある)。静かな場所で、瞑想的な気分で聴くことが適切。昼間の日中より、夜間に聴くとこの音楽の本質がより伝わる。

豆知識

ニャック・タイトゥは『素人音楽』という意味で、楽器奏者も歌い手も本職の音楽家ではなく、生活のかたわら音楽を愛好する人々である。このため、演奏スタイルは流動的で、地域や演奏者によって大きく異なる。ベトナム戦争中、この伝統は一度は消滅しかけたが、戦後に復活した。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1100年代1880年代1910年代ニャック・タイトゥニャック・タイトゥカー・チューカー・チューカイ・リュンカイ・リュン凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
ニャック・タイトゥを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

ニャック・タイトゥ の系譜全体図(多段)を見る

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