ニャー・ニャック
ベトナム阮朝(1802~1945年)の宮廷儀礼音楽で、中国古典音楽の影響下にありながらも、ベトナム固有の楽器と音階体系を発展させた格式高い伝統。
どんな音か
ニャー・ニャックは非常に洗練された、ゆっくりとした音の流れが特徴である。月琴(16弦の琵琶)と抱琴(16弦の筝)が高音域で明るく繊細に歩み、その下で楽琵琶(ダン・トルク)が深い和音を受け持つ。テンポはBPM40台から60台と、最初は停滞しているように感じるほど遅い。しかし聴き進むと、各楽器の微妙な音量変化と装飾音が耳に入り、水が静かに流れ落ちるような時間感覚が生まれる。歌唱は男性のクラシカルなテナーで、詩的な漢字詞を朗吟する。
生まれた背景
聴きどころ
楽器の出入りのタイミング。冒頭は琵琶のソロで始まることが多く、そこに筝が重なり、さらに低音の楽琶が加わる多層構造を追うと、宮廷儀礼の格調高さが伝わる。装飾音(ビブラート、スライド)がどのタイミングで入るか。歌唱が入る場合は、言葉の韻律と楽器のビートの関係に注目する。
発展
1945年の阮朝廃止で衰退し、ベトナム戦争期にはほぼ消滅の危機に瀕した。1996年からのフエ宮廷音楽復興プロジェクトで再生され、2003年のユネスコ宣言で国際的に注目された。
出来事
- 1802年: 阮朝建国でフエに首都。
- 1830年代: ミン・マン帝による雅楽整備。
- 1945年: 阮朝終焉で衰退。
- 2003年: ユネスコ「人類の口承及び無形遺産の傑作」宣言。
- 2008年: ユネスコ無形文化遺産代表一覧表に統合登録。
派生・影響
現代ベトナム宮廷音楽復興、フエ国際フェスティバルの中核演目、東アジア雅楽圏(中国・朝鮮・日本)との比較研究の対象。
音楽的特徴
楽器ケン(チャルメラ)、サオ(笛)、ダン・ニ、ダン・グエット、トゥン(銅鑼)、太鼓
リズム荘厳な儀礼拍、儒教的整然たる構成、中国系雅楽の越南化
代表曲
Mười Bản Tàu (1950)
日本との関係
初めて聴くなら
『Mười Bản Tàu』(十の古典曲)。フエ宮廷音楽の代表的な古曲で、全体が30〜40分の長さ。夜間の静かな環境で、照明を落とした空間で聴くことを勧める。スピーカーではなくヘッドフォンで、各楽器の音響空間を丁寧に追うと、宮廷儀礼の厳粛性が透ける。
