古典

ニャー・ニャック

Nhã Nhạc

フエ / ベトナム / 東南アジア · 1820年〜

別名: 雅楽(越南)

ベトナム阮朝(1802~1945年)の宮廷儀礼音楽で、中国古典音楽の影響下にありながらも、ベトナム固有の楽器と音階体系を発展させた格式高い伝統。

どんな音か

ニャー・ニャックは非常に洗練された、ゆっくりとした音の流れが特徴である。月琴(16弦の琵琶)と抱琴(16弦の筝)が高音域で明るく繊細に歩み、その下で楽琵琶(ダン・トルク)が深い和音を受け持つ。テンポはBPM40台から60台と、最初は停滞しているように感じるほど遅い。しかし聴き進むと、各楽器の微妙な音量変化と装飾音が耳に入り、水が静かに流れ落ちるような時間感覚が生まれる。歌唱は男性のクラシカルなテナーで、詩的な漢字詞を朗吟する。

生まれた背景

ニャー・ニャックは13〜14世紀の中国古典音楽(雅楽に相当)の影響を受けながら、13〜15世紀のベトナムで独自に発展した。1802年に阮朝が成立し、フエの宮廷で音楽制度が整備されたことで、現在の形に近い体系ができあがった。フエ宮廷の儀式では皇帝の出動や祭礼の際に演奏された。1954年のベトナム戦争勃発まで、フエの宮廷音楽として生き続けた。

聴きどころ

楽器の出入りのタイミング。冒頭は琵琶のソロで始まることが多く、そこに筝が重なり、さらに低音の楽琶が加わる多層構造を追うと、宮廷儀礼の格調高さが伝わる。装飾音(ビブラート、スライド)がどのタイミングで入るか。歌唱が入る場合は、言葉の韻律と楽器のビートの関係に注目する。

発展

1945年の阮朝廃止で衰退し、ベトナム戦争期にはほぼ消滅の危機に瀕した。1996年からのフエ宮廷音楽復興プロジェクトで再生され、2003年のユネスコ宣言で国際的に注目された。

出来事

  • 1802年: 阮朝建国でフエに首都。
  • 1830年代: ミン・マン帝による雅楽整備。
  • 1945年: 阮朝終焉で衰退。
  • 2003年: ユネスコ「人類の口承及び無形遺産の傑作」宣言。
  • 2008年: ユネスコ無形文化遺産代表一覧表に統合登録。

派生・影響

現代ベトナム宮廷音楽復興、フエ国際フェスティバルの中核演目、東アジア雅楽圏(中国・朝鮮・日本)との比較研究の対象。

音楽的特徴

楽器ケン(チャルメラ)、サオ(笛)、ダン・ニ、ダン・グエット、トゥン(銅鑼)、太鼓

リズム荘厳な儀礼拍、儒教的整然たる構成、中国系雅楽の越南化

代表曲

日本との関係

日本ではニャー・ニャックはほぼ認知されていない。ベトナム古典音楽の専門家や民族音楽学者の研究対象に限定され、一般的な音楽教育や大衆文化での言及はない。ただし、ユネスコ無形文化遺産登録後、図書館や大学の民族音楽資料に記録が増えた。

初めて聴くなら

『Mười Bản Tàu』(十の古典曲)。フエ宮廷音楽の代表的な古曲で、全体が30〜40分の長さ。夜間の静かな環境で、照明を落とした空間で聴くことを勧める。スピーカーではなくヘッドフォンで、各楽器の音響空間を丁寧に追うと、宮廷儀礼の厳粛性が透ける。

豆知識

ニャー・ニャックの『ニャー』は『雅』を指し、中国古典の『雅楽』と語源が同じ。1921年にユネスコの前身であるフランス極東学院がフエ宮廷音楽の楽譜と演奏を記録し、戦後のベトナムでも研究者が継承に努めた。現在、ハノイ音楽大学で教育が続いている。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図700年代1100年代1820年代ニャー・ニャックニャー・ニャック雅楽雅楽正楽正楽凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
ニャー・ニャックを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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