正楽
朝鮮王朝の宮廷・両班階級の正統音楽。
どんな音か
正楽は速度が極めて遅い。ひとつの音符が数秒かけて伸ばされ、次の音へ微妙に揺れながら移行する。主要な楽器はピリ(篳篥に近い竹製の縦笛)、大笒(大型の横笛)、奚琴(胡弓系の擦弦楽器)、玄琴と伽耶琴(弦楽器)、杖鼓(細腰の太鼓)などだ。音は丸く、輪郭が曖昧で、楽器同士が溶け合うように絡まる。宮廷の大広間や祭礼の場で演奏されることを想定しているため、大きく演奏されても圧迫感がなく、空間に散っていくような音響がある。
生まれた背景
朝鮮王朝(1392〜1910年)の宮廷と両班(貴族・知識人階級)が育てた音楽で、儒教的な礼楽思想を音楽の根拠に置いている。「正しい音楽」を意味する「正楽」という名称自体が、この音楽が道徳的秩序の表れであるとの考えを示している。国家祭礼(宗廟祭礼、社稷祭礼など)での演奏が制度化され、楽師は国家に管理された。日本植民地期(1910〜1945年)に宮廷の後援が失われたが、1950年代以降に韓国政府が無形文化財制度を設け、伝承が保護されている。
聴きどころ
「遅さ」を最初の入口にする。一音一音がどこへ向かうかを予測しながら聴いていると、音楽がゆっくりと進んでいく感覚がつかめる。宗廟祭礼楽(「保太平」など)を聴く場合は、打楽器の規則的な拍と、それに乗る旋律楽器の揺れを分けて聴くとよい。
発展
日帝時代に縮小したが、戦後に国立国楽院が継承を担い、宗廟祭礼楽は2001年にユネスコ「人類の口承及び無形遺産の傑作」第一陣として宣言された。文廟祭礼楽は現存する最古の中国系雅楽演奏伝統として中国からも注目される。
出来事
- 1116年: 高麗朝に大晟雅楽伝来。
- 1447年: 世宗大王『定大業』『保太平』作曲。
- 1948年: 国立国楽院設立。
- 2001年: 宗廟祭礼楽がユネスコ宣言。
- 2009年: ユネスコ無形文化遺産代表一覧表に登録。
派生・影響
韓国宮廷音楽は日本雅楽・ベトナム宮廷音楽との比較研究の対象となり、また現代国楽の源泉として継承される。
音楽的特徴
楽器片鐘・特鐘・編磬・特磬・洋琴・伽耶琴・玄琴・大琴・觱篥・笙簧・拍
リズム緩慢で荘厳な拍、儀礼的構成、五音音階(郷楽)・七音音階(雅楽)
代表曲
宗廟祭礼楽・保太平 (1447)
日本との関係
初めて聴くなら
「宗廟祭礼楽・保太平」は演奏時間が長く、最初の数分だけ聴いてみるとよい。儀礼の録像映像と合わせて見ると、衣装・所作と音楽の関係が分かりやすい。静かな夜よりも、明るい昼間に音量を上げて聴くほうが本来の広い空間感に近い。
豆知識
宗廟祭礼楽はユネスコ無形文化遺産に2001年に登録されている。朝鮮王朝の宗廟(歴代国王の霊を祀る廟)での祭礼は現在も李氏の子孫によって年一回行われており、そこで演奏される正楽は数百年前の楽譜(井間譜)を参照している。
