古典

リュート歌曲

Lute Song

イングランド / 西ヨーロッパ · 1530〜1620年

別名: Air de cour / English Ayre

ルネサンス末〜バロック初頭に流行した、リュート伴奏による独唱声楽曲のジャンル。

どんな音か

リュート歌曲は、ルネサンス末からバロック初頭のイングランドで栄えた、リュート伴奏による独唱歌曲。ジョン・ダウランドの作品に代表され、恋の嘆き、夜、涙、孤独を、繊細な旋律と和声で歌う。大きな劇場音楽ではなく、室内で声と撥弦楽器が近い距離で響く、親密で内省的な音楽である。

生まれた背景

16世紀末のエリザベス朝文化、宮廷娯楽、家庭音楽、楽譜出版を背景に発展した。リュートは当時の洗練された伴奏楽器で、歌手自身が弾き語りをすることもあった。ダウランドはイングランドだけでなくヨーロッパ各地の宮廷とも関わり、メランコリーを美学として高めた。

聴きどころ

声量の大きさではなく、言葉の陰影とリュートの減衰音を聴く。弦を弾いた音はすぐ消えるため、歌の間合いが非常に大切になる。ダウランドの曲では、下行する旋律や苦い和声が涙や闇を描く。静かな環境で聴くと、声と楽器の距離の近さが伝わりやすい。

発展

ダウランド「First Booke of Songes」(1597)が決定版様式を確立し、1610年頃まで英国で隆盛、その後はパーセル時代の独唱歌へ橋渡しされた。フランスではバラール、ボエセが「エール・ド・クール」を出版し、リュート伴奏から通奏低音伴奏へ移行した。スペインのビウエラ歌(ミラン、ナルバエス)はギター歌曲伝統に発展した。

出来事

  • 1536: ルイス・ミラン「El Maestro」、ビウエラ歌
  • 1597: ダウランド「First Booke of Songes」
  • 1608: ピエール・ゲドロン、フランス宮廷エール
  • 1612: ジョン・ダウランド、コペンハーゲン宮廷へ

派生・影響

通奏低音独唱曲(モンテヴェルディの「アリア」、フランス・カンタータ)と17世紀のクラシック・ギター歌曲、19世紀のリート(シューベルト)に至る独唱声楽伝統の遠い源流である。

音楽的特徴

楽器声、リュート(または通奏低音)

リズム有節形式、繊細な装飾

代表アーティスト

  • ジョン・ダウランドイングランド · 1590年〜1626
  • トーマス・モーレーイングランド · 1590年〜1602

代表曲

日本との関係

日本では古楽声楽、リュート演奏、英文学の文脈で親しまれている。ダウランドの「Flow My Tears」は特に有名で、クラシックだけでなく現代音楽やジャズの演奏家にも影響を与えた。日本の小ホールやサロン的な会場では、リュート歌曲の親密な響きがよく合う。

初めて聴くなら

入口は「Flow My Tears — ジョン・ダウランド (1600)」。下行する旋律が涙のイメージを直接伝える。続けて「Come Again, Sweet Love — ジョン・ダウランド (1597)」で甘さを、「In Darkness Let Me Dwell — ジョン・ダウランド (1610)」で深い闇と孤独を聴くと、ジャンルの幅が見える。

豆知識

リュート歌曲の楽譜は、歌の旋律とリュート用タブラチュアを一緒に印刷することが多かった。家庭で演奏する人が実用的に使える形で出版されていたため、現在の歌曲集とは違い、社交と個人演奏のためのメディアでもあった。

影響・派生で結ばれたジャンル

リュート歌曲を中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

リュート歌曲 の系譜全体図(多段)を見る

ジャンル一覧へ戻る