リュート歌曲
ルネサンス末〜バロック初頭に流行した、リュート伴奏による独唱声楽曲のジャンル。
どんな音か
リュート歌曲は、ルネサンス末からバロック初頭のイングランドで栄えた、リュート伴奏による独唱歌曲。ジョン・ダウランドの作品に代表され、恋の嘆き、夜、涙、孤独を、繊細な旋律と和声で歌う。大きな劇場音楽ではなく、室内で声と撥弦楽器が近い距離で響く、親密で内省的な音楽である。
生まれた背景
16世紀末のエリザベス朝文化、宮廷娯楽、家庭音楽、楽譜出版を背景に発展した。リュートは当時の洗練された伴奏楽器で、歌手自身が弾き語りをすることもあった。ダウランドはイングランドだけでなくヨーロッパ各地の宮廷とも関わり、メランコリーを美学として高めた。
聴きどころ
声量の大きさではなく、言葉の陰影とリュートの減衰音を聴く。弦を弾いた音はすぐ消えるため、歌の間合いが非常に大切になる。ダウランドの曲では、下行する旋律や苦い和声が涙や闇を描く。静かな環境で聴くと、声と楽器の距離の近さが伝わりやすい。
発展
ダウランド「First Booke of Songes」(1597)が決定版様式を確立し、1610年頃まで英国で隆盛、その後はパーセル時代の独唱歌へ橋渡しされた。フランスではバラール、ボエセが「エール・ド・クール」を出版し、リュート伴奏から通奏低音伴奏へ移行した。スペインのビウエラ歌(ミラン、ナルバエス)はギター歌曲伝統に発展した。
出来事
- 1536: ルイス・ミラン「El Maestro」、ビウエラ歌
- 1597: ダウランド「First Booke of Songes」
- 1608: ピエール・ゲドロン、フランス宮廷エール
- 1612: ジョン・ダウランド、コペンハーゲン宮廷へ
派生・影響
通奏低音独唱曲(モンテヴェルディの「アリア」、フランス・カンタータ)と17世紀のクラシック・ギター歌曲、19世紀のリート(シューベルト)に至る独唱声楽伝統の遠い源流である。
音楽的特徴
楽器声、リュート(または通奏低音)
リズム有節形式、繊細な装飾
代表アーティスト
- ジョン・ダウランド
- トーマス・モーレー
代表曲
- Come Again, Sweet Love — ジョン・ダウランド (1597)
- Flow My Tears — ジョン・ダウランド (1600)
- In Darkness Let Me Dwell — ジョン・ダウランド (1610)
- Lachrimae Pavan — ジョン・ダウランド (1604)
日本との関係
初めて聴くなら
入口は「Flow My Tears — ジョン・ダウランド (1600)」。下行する旋律が涙のイメージを直接伝える。続けて「Come Again, Sweet Love — ジョン・ダウランド (1597)」で甘さを、「In Darkness Let Me Dwell — ジョン・ダウランド (1610)」で深い闇と孤独を聴くと、ジャンルの幅が見える。
豆知識
リュート歌曲の楽譜は、歌の旋律とリュート用タブラチュアを一緒に印刷することが多かった。家庭で演奏する人が実用的に使える形で出版されていたため、現在の歌曲集とは違い、社交と個人演奏のためのメディアでもあった。
