伝統・民族

客家山歌

Hakka Mountain Songs

広東梅州・台湾桃園 / 中国 / 東アジア · 1500年〜

中国南部・台湾に広がる客家民系の山歌。

どんな音か

客家山歌(ハッカ・シャングー)は、山の斜面や田畑で作業しながら声を張り上げて歌う即興歌謡だ。遠くにいる相手に届かせるために高音域を使い、ファルセット(裏声)と地声を行き来しながら旋律を自由に伸縮させる。歌詞は客家語(ハッカ語)で、恋の掛け合い(対唱)、農作業の歌、季節の感慨など日常に根ざしたものが多い。二人が向かい合って掛け合いを行う「対唱」形式は音楽であり会話でもあり、言葉の機知と歌の技術が同時に試される。楽器は基本的に使わないが、現代では二胡や月琴が添えられることもある。台湾の林生祥(リン・シェンシャン)の録音では客家の伝統的な旋律感覚が月琴やギターと組み合わされ、現代的なアレンジの中でもこの「山の声」の感触が残っている。

生まれた背景

客家は漢族の一支系で、中原から南下を繰り返した移動の民だ。現在は中国南部(広東・福建・江西)、台湾、東南アジアに分布し、客家語は独自の音韻体系を持つ。山歌はこの移動の中で山地に定住した客家が、孤立した環境で音楽と言語を維持する手段として発展させた。中国本土では文化大革命期(1966〜76年)に民俗音楽が「封建的」として弾圧を受けたため、台湾の客家コミュニティが伝承の担い手になった時期がある。台湾では1990年代以降の台湾語・客家語文化復興運動のなかで山歌が再評価され、林生祥のような現代アーティストが伝統と現代音楽を繋ぐ作品を発表した。

聴きどころ

林生祥「客家本色」(2007)では月琴とギターが旋律を支えながら、歌の自由なフレーズ変化を追う構造になっている。まず歌の音程がどこで「揺れるか」を意識するといい——西洋音楽の音律に収まらない微妙なずれが、山歌の即興性の痕跡だ。対唱形式は二人の声が交互に来るので、「誰が今歌っているか」を追うだけでも音楽の構造が見えてくる。

発展

20世紀後半に陳賢英ら客家山歌歌手が舞台化を進め、台湾では1970年代以降に客家文化運動と結びついて再評価された。現代は林生祥など客家ロック・新音楽の素材として再生されている。

出来事

  • 明清: 客家南遷とともに山歌定着。
  • 1970年代: 台湾客家文化運動。
  • 2006年: 国家級無形文化遺産指定(梅州客家山歌)。
  • 2007年: 林生祥『種樹』など客家新音楽。
  • 2018年: 客家委員会による国際発信強化。

派生・影響

台湾客家ニューミュージック(林生祥『臨暗』など)、客家映画音楽の素材を提供した。

音楽的特徴

楽器声、椰胡、月琴、笛

リズム高音域の自由律、対歌のかけ合い、客家方言の声調に応じた旋律

代表アーティスト

  • 林生祥台湾 · 1999年〜

代表曲

日本との関係

客家音楽は日本ではほぼ認知されていない。台湾音楽・台湾映画への関心から客家文化にたどり着くルートはあるが、山歌そのものが取り上げられることはほとんどない。林生祥は台湾の批評家賞を複数受賞しており、台湾音楽ファンの間では知名度がある。

初めて聴くなら

林生祥「客家本色」(2007)を最初の一枚として推薦する。全曲が客家語で歌われ、月琴の音色が伝統的な山の空気を運んでくる。歌詞の意味が分からなくても、声と楽器のやり取りを追うだけで客家山歌のリズム感は伝わる。

豆知識

客家語は声調言語だが、標準中国語(普通話)や広東語とは異なる声調体系を持つ。客家山歌の掛け合いでは言葉の声調が旋律の音程とずれることがあり、「意味は合っているが音程が少しズレている」状態を意図的に作り出す即興技術が評価される。また「客家」の「客」は「よそ者・客人」の意味で、この自称・他称が民族名になった背景自体が、移動の歴史を示している。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1000年代1500年代客家山歌客家山歌山歌山歌凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
客家山歌を中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

客家山歌 の系譜全体図(多段)を見る

同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル

中国 · 1500年前後 (±25年)

ジャンル一覧へ戻る