古琴
中国文人の精神を象徴する、3000年の歴史を持つ七弦撥弦楽器音楽。
どんな音か
古琴は長さ1メートル以上、弦は絹製で共鳴板は漆で塗られている。音は極めて澄んでいて、同時に奥行きがある。一音が数秒から数十秒持続することが珍しくなく、弾き始めの瞬間から音が減衰していく過程そのものが表現になる。ビブラート的な左手の運動で音が揺らぎ、ハーモニクスと呼ぶ特殊奏法で高音域の倍音が立つ。楽譜の指示で同じ音でも引き方で音色が変わる。全体として、沈黙と音が等しい価値で配置されている。
生まれた背景
紀元前5世紀には既に存在したと言われ、中国文化圏で最も古い弦楽器の一つ。宮廷に属する楽器というより、文人(知識人・書家・画家)が自宅で瞑想のように演奏する楽器として発展した。道教や儒教の思想を背景に、音そのものより沈黙を含めた「間」の美学が重視された。清代には京都の琴家による譜本が整理され、20世紀初頭の民国期には録音技術の登場によって初めて音声記録が可能になった。
聴きどころ
一音の始まりと終わり、その間に起こる微妙な周波数変化。左手のビブラートがどの深さで止まるか。ハーモニクスが鳴る瞬間の空気感。数秒の沈黙の後に次の音が来ることで生じる時間感。古い琴と新しい琴では材質の影響で音が大きく異なるため、楽器そのものの個性も聴きどころ。
発展
20世紀の戦乱期に伝承の危機に瀕したが、管平湖・査阜西・呉景略らが録音・楽譜整理を推進した。1977年、NASAボイジャーのゴールデンレコードに管平湖『流水』が収録され、宇宙を旅する人類の音楽となった。改革開放後、龔一・李祥霆ら新世代が国際的に活躍する。
出来事
- 前5世紀: 孔子が琴を学ぶ記録。
- 7世紀: 唐代の文献『琴操』。
- 1425年: 朱権『神奇秘譜』(現存最古の琴譜集)。
- 1977年: 管平湖『流水』がボイジャーに搭載。
- 2003年: ユネスコ「人類の口承及び無形遺産の傑作」宣言。
派生・影響
現代中国の文人音楽復興運動、書画・茶道との総合的文化体験、海外華人琴社活動などを生んだ。
音楽的特徴
楽器古琴(七弦)
リズム無拍節・呼吸単位、散音・按音・泛音の三種音色、減字譜による指法指示
代表アーティスト
- 管平湖
- 李祥霆
代表曲
- 流水 — 管平湖 (1956)
日本との関係
初めて聴くなら
『流水』管平湖(1956年録音)。これは古琴の最高傑作の一つで、11分間で劇的な変化がない代わりに、沈黙と音の濃淡だけで物語を語っている。初めての場合、集中できる夕方から夜の時間帯が適している。耳ではなく心で聴く準備が必要。
