宗教・霊歌

グナワ

Gnawa

モロッコ / 北アフリカ · 1700年〜

モロッコのスーフィー的儀式音楽。Guembri(リュート)と鉄製カスタネット(qraqeb)が特徴。

どんな音か

グナワの音の核はゲンブリ(guembri、または sintir)と呼ばれる3弦の低音リュートだ。胴体は木で骨格を作り、ラクダや牛の皮を張った独特の共鳴体を持ち、弾いた音は乾いてピシャリとした質感——ウッドベースとも違う、地面に吸い込まれるような低音が出る。これにカラカブ(qraqeb、鉄製の大型カスタネット)の金属音が絡む。カラカブはひとつの奏者が両手に二枚ずつ持って激しくぶつけ合い、高音のカシャカシャした響きが洞窟に反響するように空間を埋める。歌は詠唱に近く、マアレム(maestro、師匠)が呼びかけ、集団が応答する。全体のテンポは緩やかに始まり、儀式の進行とともに徐々に速くなっていく。

生まれた背景

グナワの担い手は、西アフリカからモロッコに奴隷として連れてこられた人々とその子孫だ。「グナワ」という言葉はグワナ、つまりギニア(西アフリカ)の音転だとされるが、詳細は諸説ある。モロッコに根づく過程でイスラームとスーフィー思想が混ざり合い、トランス儀式「リラー(lila)」が発展した。リラーでは各霊(ムル、複数形ムルール)に対応する色と音楽があり、その霊を降ろすために特定の歌と色の衣装が組み合わされる。1960〜70年代に欧米のジャズミュージシャン(ランディ・ワストンら)がマラケシュのグナワに接触し、融合音楽が生まれたことで国際的な認知が始まった。

聴きどころ

まずゲンブリの「打撃音+持続音」の二段構造を耳で確認してほしい。弦を弾いた瞬間のアタック(ピシャリ)と、その後の短い倍音の残響が区別できると、ゲンブリの音色の個性が分かる。カラカブはずっと鳴り続けているので「騒音」に聞こえがちだが、パターンが反復する中で少しずつ変化する箇所を追うと、打楽器としての精度が見えてくる。Hassan Hakmounの「トランス of Seven Colors」(1994)は西洋録音技術でグナワを捉えたアルバムで、入門として音の分離が聴き取りやすい。

代表アーティスト

  • Maâlem Mahmoud Guiniaモロッコ · 1970年〜2015
  • Nass El Ghiwaneモロッコ · 1971年〜
  • Hassan Hakmounモロッコ · 1987年〜

代表曲

  • Mimoun MarhabaMaâlem Mahmoud Guinia (1995)
  • Ya SahNass El Ghiwane (1974)
  • Trance of Seven ColorsHassan Hakmoun (1994)
  • BouderbalaNass El Ghiwane (1973)
  • Allah Ya MoulanaMaâlem Mahmoud Guinia (1990)

日本との関係

グナワ日本では知名度が低い。ワールドミュージック専門のフェス(たとえばENJOY! MUSIC CLUBのような小規模イベント)で取り上げられることはあるが、CDが揃う輸入盤店は東京に数店あるだけだ。音楽的な影響よりも「モロッコ旅行記」のBGMとして認識されることのほうが多く、マラケシュのジャマ・エル・フナ広場でグナワを聞いて帰国した旅行者が検索するルートが主な入口になっている。

初めて聴くなら

Hassan Hakmounの「トランス of Seven Colors」(1994)アルバムを通して聴いてほしい。録音が比較的クリアで、ゲンブリとカラカブの音質が聴き取りやすい。夜中、照明を落とした状態でスピーカーから流すと、儀式音楽としての没入感が一番よく伝わる。Maâlem Mahmoud Guiniaの「Allah Ya Moulana」(1990)は伝統的なリラーの雰囲気に最も近い録音のひとつ。

豆知識

グナワの儀式「リラー」は夜通し続き、各霊に対応する色の衣装と音楽のセットが順番に演奏される。赤の霊にはひとつの歌群、青の霊には別の歌群、という対応関係は師匠から弟子へ口頭で伝承され、楽譜には記録されない。1969年のモロッコ・ジャズ・フェスティバル(パナソニックが協賛した国際音楽祭)でグナワが欧米ジャズと同じステージに立ったことが、グナワが「世界音楽」として認識される転換点だったとされる。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1700年代1920年代グナワグナワライライ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
グナワを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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