ワーグナーの楽劇
ワーグナーが1850年代以降に唱えた、音楽・文学・演劇・舞台美術を統合する総合芸術観に基づくオペラ形式。
どんな音か
ワーグナーの楽劇は、リヒャルト・ワーグナーが音楽、詩、演劇、舞台美術を統合する総合芸術として構想したオペラ形式。番号付きのアリアを並べる従来のオペラから離れ、途切れにくい音楽の流れ、ライトモティーフ、巨大な管弦楽、神話的な物語を組み合わせる。音楽が劇の心理と運命を語る点が核である。
生まれた背景
19世紀半ばのドイツ・ロマン主義、民族神話への関心、劇場改革の思想を背景に生まれた。ワーグナーは自ら台本を書き、バイロイト祝祭劇場まで建設して、理想の上演環境を追求した。「トリスタンとイゾルデ」「ニーベルングの指環」「パルジファル」は、その思想を大規模に実現した作品である。
聴きどころ
独立した名曲を抜き出すより、動機が物語の中で変形していく過程を聴く。ある人物、感情、物に結びついたライトモティーフが、場面ごとに和声や音色を変えて戻ってくる。長大なので、最初は前奏曲や有名場面から入り、後で台本と一緒に追うと理解しやすい。金管と低弦の重みも重要である。
発展
「トリスタンとイゾルデ」(1865)の半音階和声が西洋調性の限界を露呈し、4部作「ニーベルングの指環」(1876全曲初演)、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」(1868)、「パルジファル」(1882)が最終形を示した。ワグネリズムは19世紀末ヨーロッパ思想・芸術全般を席巻した。
出来事
- 1850: ワーグナー「未来の芸術作品」出版
- 1865: 「トリスタンとイゾルデ」初演
- 1876: バイロイト祝祭劇場開場、「指環」全曲初演
- 1882: 「パルジファル」初演
派生・影響
後期ロマン派(マーラー、R.シュトラウス、ブルックナー)、初期表現主義(シェーンベルク「グレの歌」「ペレアスとメリザンド」)、後の調性解体への直接的橋渡しとなった。映画音楽のライトモティーフ書法もワーグナー由来。
音楽的特徴
楽器独唱、合唱、巨大管弦楽
リズムライトモティーフ、無限旋律、半音階和声
代表アーティスト
- リヒャルト・ワーグナー
代表曲
- ニーベルングの指環「ワルキューレ」 — リヒャルト・ワーグナー (1870)
- 神々の黄昏 — リヒャルト・ワーグナー (1876)
- トリスタンとイゾルデ — リヒャルト・ワーグナー (1865)
- ニュルンベルクのマイスタージンガー — リヒャルト・ワーグナー (1868)
- パルジファル — リヒャルト・ワーグナー (1882)
日本との関係
初めて聴くなら
入口は「トリスタンとイゾルデ — リヒャルト・ワーグナー (1865)」の前奏曲。解決を引き延ばす和声が楽劇の心理的な深さを示す。物語の大きさを知るなら「ニーベルングの指環『ワルキューレ』」、祝祭性なら「ニュルンベルクのマイスタージンガー」がよい。
豆知識
バイロイト祝祭劇場は、ワーグナー作品のために作られた特別な劇場である。客席を暗くし、オーケストラを見えにくい位置に置く設計は、観客を舞台世界へ集中させるためだった。現在の映画館的な没入体験にも通じる発想である。
