伝統・民族

ケルズ・ダント

Cerdd Dant

ウェールズ / 西ヨーロッパ · 1500年〜

別名: Penillion

ウェールズのハープ伴奏即興詩唱。

どんな音か

ハープが独自の旋律を弾き続ける中、歌い手がその旋律とは別の旋律を即興的に作って歌う——というのがケルズ・ダントの核心。歌とハープは同じ音楽的空間を共有しながら、別々のラインを進む。ウェールズ語の詩(ペニリオン)を歌い手が選び、ハープ奏者はそれとは独立して弾き続けるため、二つの声部がどこかで出会い、どこかですれ違う。音域は中程度で、ウェールズ語の子音の硬さが音楽に輪郭を与える。競技の場では審査員が詩の選択・声の質・ハープとの調和の三点を評価する。

生まれた背景

ウェールズの「アイステズヴォッド(詩と音楽の競演祭)」に記録が残る中世の宮廷詩人(バルド)の伝統がもとにあり、詩と音楽が一体であった時代からの連続性を主張する。17〜18世紀に現在のスタイルが形成されたとされ、19世紀のウェールズ民族主義的な文化復興(Y Werin運動)のなかでアイステズヴォッドが再整備されてケルズ・ダントが競技として制度化された。現代では年に数回の大会があり、特にナショナル・アイステズヴォッドでのケルズ・ダント部門は参加者数百人が競う大規模なものになっている。

聴きどころ

ハープの旋律と歌の旋律が、どこで一致し、どこで異なる方向に進むかを追うとよい。一致する瞬間に自然な「解決」の感覚があり、ずれている間は心地よい緊張がある。「Datgeiniad y ケルズ・ダント」の録音では、ハープが先に始まって歌がどこから入るかを見つけることが最初の聴き方として有効。

発展

1860年代の全国アイステズヴォッド復活で標準化。Cerdd Dant Societyが1934年に設立され楽譜と競技規則を整備。現代では青少年合唱団が新作を披露する。

出来事

  • 12世紀: 宮廷詩人ガールフドの法制化
  • 1819: 近代アイステズヴォッド復活
  • 1934: Cerdd Dant Society設立
  • 1947: 国際アイステズヴォッド開始

派生・影響

ウェールズ合唱伝統(Côr meibion)と並ぶ国民音楽の柱。

音楽的特徴

楽器テリン(ウェルシュ・ハープ)、声

リズムハープと声が異なる旋律で同時進行する対位法的構造

代表曲

日本との関係

日本ではウェールズ音楽全体への関心が薄く、ケルズ・ダントを知る人はほぼいない。ケルト音楽ファンの間でもアイルランド・スコットランドへの関心が先行しており、ウェールズ固有の音楽伝統が紹介される機会は少ない。

初めて聴くなら

「Datgeiniad y ケルズ・ダント」の録音から始めるしかない選択肢が限られたジャンルだが、ハープと声が絡む様子を追うだけで形式の特異性は伝わる。ウェールズ語の発音とハープの音色に慣れると、個々の詩節の終わりがどこかが聴き取れるようになる。

豆知識

ケルズ・ダントの競技ルールでは、歌い手はハープ奏者が何の曲を弾くかを事前に知らされないまま演奏が始まることがある。つまり歌い手はハープの最初の数小節を聴いて旋律を把握し、そこに合う詩を選び、ハープとのずれを計算しながらリアルタイムで歌う。このアドリブ性が競技の核心で、熟練の歌い手とそうでない歌い手の差が即座に表れる。

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