チュニジア・マルーフ
チュニジアのアンダルシア古典音楽遺産。ヌーバ組曲を地方的に編成した宮廷由来の伝統。
どんな音か
チュニジア・マルーフは、複雑なモーダル構造(ノーバ・スケール)を基礎にしており、器楽奏者と歌い手が複数の楽器で精密な旋律を展開する。ウード(梨形の撥弦楽器)が主要楽器として、複雑なアルペッジョと旋律の両立を示す。タンバリンのようなリズム楽器も重要で、複数のリズム・パターンが同時に層をなす。全体として、音は非常に高度に編成されており、即興要素も存在するが、基本的には厳密な音楽学的枠組みの中にある。
生まれた背景
マルーフはアンダルシア古典音楽がイベリア半島から北アフリカに移行した際に、チュニジアで特有の形式として発展したもの。16世紀から18世紀にかけて、オスマン帝国の宮廷音楽と、アンダルシア遺産の融合が進んだ。20世紀には、フランス植民地化による文化的圧力の中で、マルーフは『民族遺産』として意識的に保護されるようになった。独立後は、国家的なアイデンティティ・マーカーとして位置付けられている。
聴きどころ
ウードの音色と、その旋律構造の複雑性に注目。声部と楽器部の相互作用が、西洋的な『主旋律と伴奏』の関係とは異なることを理解することが重要。モーダル・システムの中での即興性を聴き分けること。複数の歌唱パート(特にコーラス)の役割も異なり、その層構造を感じ取ることが理解の鍵。
発展
独立後の1959年に音楽院ラシディヤ協会が制度化し、ロトフィ・ブシュナーク、ズィヤード・ガラブらが現代世代の代表となる。21世紀にはジャズや現代古典との融合実験も盛ん。
出来事
- 1492: グラナダ陥落、移民開始
- 1934: ラシディヤ協会設立
- 1959: 国営音楽院制度化
- 2010: ロトフィ・ブシュナーク欧州ツアー
派生・影響
アンダルシア古典、アラブ・ターラブ、現代アラブ・古典・ジャズ融合。
音楽的特徴
楽器ウード、リバーブ、ヴァイオリン、ナイ、ダルブッカ、合唱
リズムヌーバ組曲、アブヤーット拍子、加速構成
代表アーティスト
- Lotfi Bouchnak
代表曲
Maghni — Lotfi Bouchnak (1995)
日本との関係
チュニジア・マルーフは日本ではほぼ認知されていない。北アフリカ音楽への学術的関心から、時折言及されるが、一般的なリスナーへの到達機会は非常に限定的。ただし、ワールド・クラシック音楽の愛好家の中では、徐々に認識が広がっている。
初めて聴くなら
Lotfi Bouchnak『Maghni』(1995年)。この現代的な録音は、チュニジア・マルーフの伝統を守ります同時に、新しい音響を求めたもの。Lotfi Bouchnakはチュニジアの代表的なマルーフ歌手。夜間に、集中力が必要な環境で聴くことが推奨される。
豆知識
マルーフのヌーバ・スケール(モーダル・システム)は、西洋的な『長調・短調』とは全く異なる音階体系を使用している。つまり、この音楽を初めて聴く西洋耳には、独特の『奇妙さ』が感じられる。しかし、その奇妙さの中に、北アフリカ・中東音楽の普遍的美学が隠されている。
