古典

トッカータ

Toccata

イタリア / 南欧 · 1580〜1750年

鍵盤奏者の名人芸を披露する、自由形式の即興的鍵盤曲。

どんな音か

トッカータは、鍵盤楽器やオルガンで奏者の技巧と即興性を示す自由な器楽曲。触れるという意味を持つ語に由来し、速い音型、分散和音、突然の和声変化、フーガ的な部分が組み合わされる。厳密な舞曲ではなく、奏者が楽器を試し、空間を鳴らし、聴衆を一気に引き込むための形式である。

生まれた背景

16世紀末から17世紀のイタリアで、フレスコバルディらが鍵盤音楽として発展させた。北ドイツではブクステフーデらのオルガン作品に受け継がれ、バッハの「トッカータフーガ ニ短調 BWV 565」によって広く知られるようになった。教会の大きなオルガンと即興演奏の文化が背景にある。

聴きどころ

拍をきっちり追うより、手が鍵盤上を走る感覚を聴く。冒頭で強い身振りを示し、自由なパッセージで空間を開き、時にフーガへ入って構築性を見せる。オルガン曲では低音ペダルの迫力、残響、和音の厚みが大きな魅力になる。怖い音楽として消費されがちだが、本来は技巧と即興の見せ場である。

発展

フレスコバルディ「トッカータ集第1巻」(1615)が劇的なリズム転換と装飾を持ち込み、フローベルガーがドイツへ移植した。北ドイツでは「ペダルもふんだんに用いる即興」が発展し、ブクステフーデを経てバッハ「トッカータとフーガ ニ短調」(BWV565、伝)に至った。18世紀半ばには独立曲としては衰退し、前奏曲とフーガのスタイルに吸収された。

出来事

  • 1593: アンドレア・ガブリエーリ「Intonationi」出版
  • 1615: フレスコバルディ「トッカータ集第1巻」
  • 1700年頃: ブクステフーデ、北ドイツ・トッカータ確立
  • 1730年頃: バッハ「トッカータとフーガ ニ短調」

派生・影響

前奏曲とフーガ、幻想曲、19世紀のシューマン・トッカータ作品7、20世紀ラヴェル「クープランの墓」のトッカータ、プロコフィエフのピアノ・トッカータへと、技巧的鍵盤書法の代名詞となった。

音楽的特徴

楽器オルガン、チェンバロ

リズム自由形式、装飾的パッセージ、模倣セクション

代表アーティスト

  • ジローラモ・フレスコバルディイタリア · 1605年〜1643
  • ディートリヒ・ブクステフーデデンマーク/ドイツ · 1670年〜1707
  • ヨハン・ゼバスティアン・バッハドイツ · 1703年〜1750

代表曲

  • トッカータ第7番(第2巻)ジローラモ・フレスコバルディ (1627)
  • 前奏曲、フーガと変奏曲 BuxWV 137ディートリヒ・ブクステフーデ (1690)
  • トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565ヨハン・ゼバスティアン・バッハ (1710)
  • トッカータ ヘ長調 BWV 540ヨハン・ゼバスティアン・バッハ (1717)

日本との関係

日本ではバッハの「トッカータフーガ ニ短調」が圧倒的に有名で、映画、テレビ、ゲームで怪奇的な場面に使われてきた。オルガン演奏会や音楽大学では、より広いトッカータの伝統も学ばれる。教会オルガンの少ない日本では、ホールのパイプオルガン公演が実際の響きを知る貴重な場になる。

初めて聴くなら

入口は「トッカータフーガ ニ短調 BWV 565 — ヨハン・ゼバスティアン・バッハ (1710)」。有名な冒頭だけでなく、フーガ部分まで聴くと形式の広がりが分かる。自由で内省的な鍵盤語法なら「トッカータ第7番(第2巻) — フレスコバルディ (1627)」、大規模な構築なら「トッカータ ヘ長調 BWV 540」がよい。

豆知識

トッカータは楽譜に書かれていても、即興の気配を強く残すジャンルである。奏者が鍵盤に触れながら音の可能性を広げるという発想が名前に刻まれている。だから整った形式美より、最初の一撃の説得力が大事になる。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1580年代1670年代トッカータトッカータフーガフーガ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
トッカータを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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