伝統・民族

クアンホー

Quan Họ

バクニン省 / ベトナム / 東南アジア · 1100年〜

ベトナム北部紅河デルタ地方の伝統音楽で、男女の歌唱グループが交互に歌詞を交わす対唱形式。ユネスコ無形文化遺産。

どんな音か

クアンホーの音響は清廉で、複数の声がハーモニーを成す。男性グループが低く柔らかい音域で開始し、女性グループがそれを高い音域で応答する。各グループは5〜15人で構成され、ユニゾン(同じ高さ)で歌い、微妙な装飾音やビブラートが自然に生まれる。メロディーはベトナム古典音楽の音階に則り、ペンタトニック(5音階)を基調としながらも、半音の微妙なズレがある。テンポはゆっくりで、1曲が3〜5分。響きは野外で鳴ることを前提に設計されており、水田や村の広場で聞く場合の音の伝播が計算されている。

生まれた背景

クアンホーは1100年代から紅河デルタの農村で伝承され、愛、結婚、家族、季節労働の日々を詞としてきた。19世紀にはベトナム民族主義運動の中で『民族の心』として再評価され、フレンチ・インドシナ期にもその地位は保たれた。ベトナム戦争後、社会主義体制下でも北ベトナムの『人民の音楽』として奨励され、現在はハノイ郊外の複数の村で公式な『クアンホー村』として保護されている。

聴きどころ

男女の声域の違いがもたらす『空間感』。低い男声と高い女声の間の周波数ギャップ。各グループ内での『ユニゾンのズレ』がいかに意図的か。歌詞の『問い』と『応答』の構造が、どう音楽のフレーズに対応しているか。

発展

20世紀には都市公演化が進み、バクニン省民俗芸術団が舞台化を担った。2009年のユネスコ無形文化遺産登録が決定打となり、世代間の継承活動が活発化した。

出来事

  • 11世紀: 紅河デルタでの起源(伝)。
  • 1954年: 北ベトナム文化政策での保存。
  • 1996年: バクニン省民俗芸術団全国公演。
  • 2009年: ユネスコ無形文化遺産代表一覧表に登録。
  • 2018年: クアンホー国際フェスティバル。

派生・影響

ベトナム北部民謡全般の旋律的源泉、現代ベトナム合唱曲の素材、ホー・ザイン作品など現代音楽家のインスピレーションとなる。

音楽的特徴

楽器声(無伴奏が伝統、舞台では民族楽器伴奏)

リズム男女対歌の応答、自由律の伸びやかな旋律、北部方言詞章

代表曲

日本との関係

クアンホー日本ではほぼ認知されていない。ベトナム文化愛好者や東南アジア民族音楽研究者の一部が知る程度。大衆文化での紹介はなく、NHK等の放映でも限定的である。

初めて聴くなら

クアンホー Bắc Ninh』(バックニン州のクアンホー)。バックニン地方は特に古い伝統を保つ地域で、この録音は20世紀中盤の現地採集による。朝方の静寂の中で聴くと、農村共同体の一体感が伝わる。

豆知識

クアンホーの対唱は、男女の婚約前の儀式的な『こぎ合い』としても機能していた。歌詞の『問い』が相手女性への求婚を意味する場合があり、音楽が社会的契約の役割も担っていた。2009年にユネスコ無形文化遺産に登録されたことで、国際的な認知度は向上したものの、高齢化に伴う後継者不足が深刻な課題となっている。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1100年代クアンホークアンホーカー・チューカー・チュー凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
クアンホーを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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