ペルシア古典(ダストガー体系)
イラン高原で千年以上の体系化を経た古典音楽で、12のダストガーと500以上のグーシェ(旋律パターン)からなるラディーフ体系を持つ。
どんな音か
「ラディーフ(ペルシア古典(ダストガー体系))」と呼ばれる500以上の旋律パターン(グーシェ)の体系を演奏者が記憶し、即興の文脈で引き出して音楽を組み立てる。12のダストガー(旋法体系)があり、それぞれに固有の音程構造と感情的な含意がある——ダストガー・シュールは哀愁、マホウルは瞑想的な静けさ、というように。使われる楽器はタール(長頚リュート)、セタール(4弦リュート)、サントゥール(ハンマーダルシマー)、カマンチェ(スパイク・フィドル)など。声楽ではタジウィードに似た装飾技法と「タフリール(声を震わせる細かい技)」が重要で、Mohammad Reza Shajarian(シャジャリアン)の声はペルシア声楽の頂点とされる。
生まれた背景
イランの古典音楽は10〜15世紀のイスラム黄金時代に理論的基盤が形成され、サーファウィー朝(1501〜1736年)のもとで宮廷庇護を受けた。19世紀後半のカージャール朝時代に「ラディーフ」として系統的に整理・記録され始め、現代に伝わる体系が確立した。1979年のイスラム革命後は音楽への規制が厳しくなり、パブリックな演奏が制限された——Shajarian自身も一時期演奏を中断せざるをえなかった。それでも録音とカセット流通を通じて音楽は生き延び、現在は一定の制約のもとで演奏会が行われている。
聴きどころ
Shajarianの「Bidad」(1985)では、声が単音から始まり装飾音(タフリール)を加えながら旋律を展開する——この装飾が「音符の間を埋める」のではなく、声そのものが形を変えていく感覚に耳を慣らしてほしい。Kayhan Kalhorの「Night Silence Desert」(2000)では、カマンチェの弓で引く弦の音が長く持続し、倍音が部屋に漂う——この「音の余韻の扱い」が西洋古典音楽とは根本的に異なる。
発展
20世紀のモハンマド・レザ・シャジャリヤン、シャフラム・ナゼリ、フセイン・アリザデ、カイハーン・カルホール(カマンチェ)らが世界的名声を得た。革命後の女性歌手公衆出演禁止に対し、女性シンガーは私的場や海外録音で抵抗してきた。
出来事
- 1850: カジャール宮廷でラディーフ体系化
- 1934: テヘラン音楽院設立
- 1979: イラン革命後の規制
- 2009: ラディーフがユネスコ無形文化遺産登録
派生・影響
アラブ・マカーム、トルコ・マカーム、アゼルバイジャン・ムガーム、現代世界音楽と交差。
音楽的特徴
楽器タール、セタール、サントゥール、ネイ、ケマンチェ、ザルブ、声
リズム12ダストガー、ラディーフ即興、アヴァーズ自由律
代表アーティスト
- Mohammad Reza Shajarian
- Shahram Nazeri
- Kayhan Kalhor
代表曲
Bidad — Mohammad Reza Shajarian (1985)- Night Silence Desert — Kayhan Kalhor (2000)
Through Eternity — Shahram Nazeri (2007)
日本との関係
初めて聴くなら
Shahram Nazeriの「Through Eternity」(2007)は現代的な録音で音質がよく、声の装飾技法と楽器のからみ方が聴きやすい。次にKayhan Kalhorの「Night Silence Desert」でカマンチェだけに集中し、弦楽器とも打楽器とも違う音の輪郭を楽しむ。夜、照明を落とした環境が最も音楽の質感を受け取りやすい。
豆知識
ペルシア古典音楽のラディーフ体系は2009年にユネスコの無形文化遺産に登録された。ただしイラン政府と国際社会の政治的な緊張が続く中、登録の意味をどう解釈するかについては複雑な議論がある。また多くのイランの一流音楽家が革命後に海外に移住しており、現在のペルシア古典音楽の「中心」はテヘランだけでなくロサンゼルス、パリ、トロントにも分散している。
