狂言
能と対をなす日本の古典喜劇。声と所作を主体とする。
どんな音か
狂言は台詞と所作だけで成立する。楽器演奏は原則なく、舞台に出るのは多くて3〜4人。声は地声に近い発声で、能の幽玄な謡い方とは対照的に、日常の口調を様式化したものが基本になっている。台詞のリズムは話者の感情に沿って速くなったり止まったりするが、音の置き方には古来の型がある。笑いの場面では声に力が入り、動作が大きくなる。泣く場面では「ハハハ」と様式化された泣き声が出て、現代のリアリズム演技とは全く異なる。舞台には松の絵が描かれた壁だけがあり、扇や杖など最低限の小道具が空間を作る。
生まれた背景
狂言は室町時代(14〜15世紀)に猿楽の滑稽演目として独立した。もとは民衆が楽しむ笑劇だったものが、足利将軍家の保護を受けた能とセットで演じられるようになり、武家社会の式楽として洗練されていった。江戸時代には大蔵流・和泉流・鷺流の三流派が成立し、現在は大蔵流と和泉流が残る。「棒縛」「附子(ぶす)」「柿山伏(かきやまぶし)」など、太郎冠者と次郎冠者という主従コンビが主人を出し抜こうとして失敗するパターンが多く、権威を笑いとばす庶民的な感覚が通底している。
聴きどころ
台詞の「間(ま)」に注目してほしい。次の言葉が来るかと思うとわずかに止まり、その沈黙が笑いを準備する。野村万作や野村萬斎の演じる太郎冠者は、言葉の途中で声の高さを変えたり伸ばしたりすることで、文字に書けない感情の揺れを音として表現する。舞台上の動作は大きくゆっくりで、小さな身振り一つが遠くの観客席まで届くように計算されている。
発展
20世紀後半、野村万作・万蔵家・茂山千五郎家らが現代演劇との接続を試み、海外公演や新作狂言を展開した。野村萬斎は『法螺侍』(シェイクスピア翻案)など実験的舞台でも活躍する。
出来事
- 室町期: 大蔵・鷺・和泉流の形成。
- 1614年: 大蔵流が幕府お抱えに。
- 1879年: 鷺流の宗家断絶。
- 1995年: 野村萬斎主演『法螺侍』。
- 2008年: 能楽としてユネスコ無形文化遺産登録。
派生・影響
能と一体で日本古典劇の二大柱を成し、現代の喜劇演劇・狂言ワークショップを通じて広く普及している。
音楽的特徴
楽器声(シテ・アド)、限定的な能管・小鼓
リズム対話劇、誇張された節回し、囃子は限定的
代表アーティスト
- 野村万作
- 野村萬斎
代表曲
日本との関係
初めて聴くなら
映像で観ることを強く勧める。「棒縛」はNHKのアーカイブや国立能楽堂のDVDで見られる。太郎冠者と次郎冠者が棒や縄に縛られながらも酒を飲もうとするくだりは、台詞の滑稽さよりも身体の制約の中で動こうとする所作の可笑しさが笑いの核になっている。初めて観るなら昼の公演より録音・録画の方が、繰り返し観られて台詞が耳に入りやすい。
豆知識
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- 古典三線音楽
