琵琶楽
琵琶を伴奏に物語を語る日本の語り物音楽の総称。
どんな音か
琵琶の撥が絹の弦を弾く時の『こすれ音』が前景に出ている。一音一音の立ち上がりが明確で、音の『余韻』より『次への推進力』が強い。歌い手は物語の登場人物に成り代わる形で、音域を大きく使い分けながら朗々と語る。弦の共鳴をコントロールすることで、古びた殿堂や戦場、夜道といった情景が音だけで立ち現れる。
生まれた背景
琵琶楽の源流は平安末期の法曲(法師が寺で琵琶を伴奏に経典を語るもの)に遡る。室町・江戸期には『平家琵琶』『薩摩琵琶』『大阪琵琶』など、地域ごと・流派ごとに分化し、大名や町衆の娯楽・教養の中心となった。明治維新後、西洋音楽の台頭で一度は衰退の危機に瀕したが、1970年代以降、民族音楽への再評価とともに、若い奏者による継承活動が活発化した。
聴きどころ
琵琶の『指を立てる/寝かせる』という微妙な奏法の違いが、語りの強弱やキャラクターの切り替わりに直結している。また、一見して同じリズムで進んでいるように聞こえながら、実は歌詞の意味内容によって、わずかに『ためる』『推し進める』といった時間操作をしている。その違いを感じ取ると、単なる物語の筋書きではなく、奏者の歴史解釈が聞こえてくる。
発展
明治期に薩摩琵琶(吉村岳城・永田錦心ら)・筑前琵琶(橘旭翁ら)が東京で全盛期を迎え、軍国主義期には愛国的物語と結びつき広まった。戦後は衰退したが、鶴田流(鶴田錦史)が現代音楽の素材としても活用された(武満徹『ノヴェンバー・ステップス』)。
出来事
- 13世紀: 平家琵琶の成立。
- 16世紀: 薩摩琵琶の発展。
- 1896年: 筑前琵琶の創始(橘旭翁)。
- 1967年: 武満徹『ノヴェンバー・ステップス』で琵琶が世界に紹介。
- 1985年: 鶴田錦史がインタビュー集出版し琵琶再評価。
派生・影響
謡曲・浪花節など語り物芸能全般に影響し、現代音楽でも武満徹らが琵琶を作品に採用した。
音楽的特徴
楽器琵琶(平家琵琶・薩摩琵琶・筑前琵琶)、声
リズム撥強奏と語りの交替、無拍節の語り部、軍記物の劇的展開
代表アーティスト
- 鶴田錦史
代表曲
- 壇ノ浦 — 鶴田錦史 (1980)
日本との関係
初めて聴くなら
鶴田錦史による『壇ノ浦』(1980)。平家と源氏の最終決戦を琵琶ひとつで語る約20分の作品。『あたら若武者が』という台詞の直前の、琵琶の打ち方が急変する瞬間に、一度は立ち止まってほしい。夜間に流水音や風音が入らない静かな環境で聴くことを推奨。
