苗族音楽
中国南部・東南アジアの苗族(モン族)が継承する歌と笙の音楽。
どんな音か
笙(えん、またはケン)という竹製の多孔フルートから、複数の周波数が同時に立ち上がる。古い音階に基づいており、西洋音階では表現しがたい音程の跳躍がある。歌唱は男女が交互に歌い、掛け合いながら即興で詩的な言葉遊びをする。方言による音韻変化が曲の構造そのものになっている。
生まれた背景
聴きどころ
笙の和音の複雑さに一度耳を向けたら、その上を走る歌詞の韻律に注目すること。掛け合いの『質問』と『回答』の息継ぎのタイミングを聴き取ると、音楽というより儀式的な言語交換に近い構造が見えてくる。方言による音韻ゆえに、歌詞の意味は理解できなくても、音韻のパターン認識自体が『楽しみ』の一部になっている。
発展
20世紀後半に貴州省を中心に蘆笙コンクール・古歌歌唱大会が制度化され、保存と継承の体系が整った。海外ではラオス・タイの戦後ディアスポラ、米国の苗族コミュニティ(ミネソタ・カリフォルニア)で独自の発展を見せている。
出来事
- 古代: 苗族西南遷と蘆笙文化伝承。
- 1950年代: 民族識別と文化政策。
- 1986年: 貴州蘆笙コンクール制度化。
- 2006年: 苗族古歌が国家級無形文化遺産指定。
- 2008年: 米国モン・コミュニティの蘆笙音楽振興。
派生・影響
ラオス・タイ・ベトナムのモン族音楽との連続性を保ちつつ、近年は世界各地のモン・ディアスポラが新作蘆笙曲を生み出している。
音楽的特徴
楽器蘆笙(集合葦笛)、芒筒、口琴、太鼓、声
リズム蘆笙の和音的伴奏、集団踊りの円陣、苗族多声合唱
日本との関係
中国少数民族音楽として民族音楽学や人類学の研究対象には入っているが、日本の一般聴者の認知度は極めて低い。大学の比較音楽学の講義で参考資料として紹介される程度。インターネット検索で出てくるアカデミック動画が主な接点。
初めて聴くなら
フィールド録音のドキュメンタリー音源から始め、実際の儀式や恋愛場面での歌唱風景を映像で一度確認することを強く勧める。音だけでは、『何をしているのか』が全く見えず、『複雑な即興演奏』としての驚きだけが残る。映像を介して初めて、『社会的な機能を持つ音楽』として再定義される。
豆知識
笙の奏法はラオスの楽器『ケン』に影響を与えたとも言われ、東南アジア全体の弦楽器文化に痕跡を残している。また、苗族の楽器はユネスコの『人類の無形文化遺産』の登録候補に上がったことがあり、グローバルな文化保護運動の対象になっている。
