カドンゴ・カム
ウガンダ・ブガンダ系民族で1960年代に成立した、アコースティックギター一本(「カドンゴ・カム」=小さなギターひとつ)で長尺の物語と社会批評を歌う叙事歌謡。
どんな音か
アコースティックギター一本を弾きながら、ひとりの歌い手が長い物語を語る。楽器編成の簡素さとは対照的に、歌詞の内容は社会批評・政治・恋愛・悲劇まで幅広い。バガンダ語(ルガンダ語)で歌われ、1曲が10〜20分に及ぶこともある。声はナレーターのように語りかけるが、感情が高まる場面では音程がはっきりする。ギターはコード弾きが基本で、指弾きのパターンが繰り返される。「カドンゴ・カム」とはルガンダ語で「小さなギター一本」を意味し、そのままジャンル名になった。
生まれた背景
1960年代のウガンダ独立期、ブガンダ王国を基盤とする文化が復興する中で成立した。伝統的な吟遊詩人(グリオに相当する職能)の語り物文化と、植民地期に入ってきたアコースティックギターが結びついた。フレッド・マサガジが先駆けとされ、その後パウロ・カフェーロが1990年代に絶大な人気を誇り、国民的存在となった。カフェーロは2007年に急死しており、現在もウガンダ音楽史の象徴的人物として扱われている。
聴きどころ
歌詞が理解できなくても、語りと歌の切り替わりに注目する。物語が盛り上がる場面でボーカルの音程が上がり、ギターのリズムが変わることがある。パウロ・カフェーロの『Walumbe Zaaya』(1995年)は死と運命をテーマにした曲で、声の沈み込むような低音から確認できる。
発展
1980年代に内戦を経てゲラルド・カイロが復興を主導し、「ピエルル・カイロ」名義で道徳訓戒の歌を多く残した。21世紀にはパオロ・ケイブワ、エディ・マサガジ・ジュニアが世代継承を行い、ウガンダ・ヒップホップへの素材提供も行う。
出来事
- 1965: フレッド・マサガジ録音開始
- 1971: アミン政権下で歌手亡命
- 1986: ムセベニ政権成立後の復興
- 2010: ウガンダ国民音楽として再評価
派生・影響
ブガンダ宮廷音楽エンセグ、現代ウガンダ・ポップ、ボンゴ・フラヴァに影響。
音楽的特徴
楽器アコースティックギター、声
リズム緩やかな2/4、長尺叙事、ルガンダ語
代表アーティスト
- Fred Masagazi
- Bernard Kabanda
- Paulo Kafeero
代表曲
- Walumbe Zaaya — Paulo Kafeero (1995)
Akadongo — Fred Masagazi (1965)
Embuga Kabaka — Bernard Kabanda (1990)
Engalabi — Paulo Kafeero (1998)
Singa Wandeze — Paulo Kafeero (2000)
日本との関係
初めて聴くなら
パウロ・カフェーロの『Walumbe Zaaya』(1995年)を試す。死を擬人化した歌詞とカフェーロの重い声が、言語を超えて感情を伝える。静かな時間に、歌詞の流れを追いながら聴く。
豆知識
パウロ・カフェーロはウガンダで「カドンゴ・カムの王」と呼ばれ、生前は選挙キャンペーンや政治家からのパフォーマンス依頼も多かった。彼の葬儀にはウガンダ全土から数万人が集まったという。現在もカフェーロの曲はウガンダのラジオで頻繁に流れている。
