ドゥドゥク音楽
アルメニア起源の二枚舌木管楽器ドゥドゥクを中心とする、深い哀愁を湛えた古典・民俗音楽。
どんな音か
ドゥドゥク(アルメニア起源のダブルリード木管楽器)の音色は、人間の声に最も近いとされる。倍音が多く、同じ音を出していても『呼吸する』ように聞こえ、息継ぎがそのまま音楽の構造になっている。旋律は装飾的で、主旋律の周りを無数の『微分音』(半音未満の音程)が取り囲む。テンポは遅く、各フレーズの『時間の使い方』が作曲の核。
生まれた背景
ドゥドゥクの起源は確実ではないが、アルメニアでは紀元前6世紀の記録に遡る。古代ペルシャ帝国、ギリシャ帝国を経て、オスマン帝国の時代にも奏され続けた。20世紀のアルメニア独立戦争と虐殺の中で、楽器製造の技術が一度は途絶えかかったが、ディジヴァン・ガスパリャンらの努力で復興された。2005年にはUNESCOの『傑作』指定を受けた。
聴きどころ
ドゥドゥクの音は『単独』ではなく『複数の倍音層』として聞こえる。その『層の分け方』を意識すると、同じ旋律でも全く異なる印象になる。また、奏者の『息づかい』がそのまま楽曲の構造になっているため、聴き手も無意識のうちに奏者と同期する。
発展
20世紀のヴァチェ・ホヴァネス・サクサキャン、ジヴァン・ガスパリャンが現代演奏を確立し、後者の音色はリドリー・スコット監督『グラディエーター』(2000)で世界的に知られた。2005年にドゥドゥクがユネスコ無形文化遺産に登録された。
出来事
- 1915: アルメニア人ジェノサイド
- 1957: ジヴァン・ガスパリャン録音開始
- 2000: 『グラディエーター』でドゥドゥク世界的に知られる
- 2005: ユネスコ無形文化遺産登録
派生・影響
アルメニア教会音楽、アゼルバイジャン・ムガーム、トルコ・カラ・ニ、現代映画音楽。
音楽的特徴
楽器ドゥドゥク(2本)、ダム伴奏、声
リズム自由律即興、ダム持続音、五音とマカーム
代表アーティスト
- Djivan Gasparyan
代表曲
- I Will Not Be Sad in This World — Djivan Gasparyan (1989)
日本との関係
初めて聴くなら
ディジヴァン・ガスパリャンの『I Will Not Be Sad in This World』(1989)。タイトルの『世界の悲しみの中でも悲しまない』というテーマが、ドゥドゥクの音色そのものになっている。夕方の静かな部屋で、光が斜めに入る時間帯に聴くことを推奨。
豆知識
ドゥドゥクは映画音楽での多用により、『古代中東の音』『精神的な深さの象徴』というステレオタイプが定着してしまった。実際には、アルメニア民俗音楽として愛から死別まで様々な感情を表現する汎用楽器である。その『幅広さ』が本来のドゥドゥク音楽の魅力。
