宗教・霊歌

道教儀礼音楽

Daoist Ritual Music

中国・台湾 / 東アジア · 200年〜

中国道教の祭祀(斎醮)で行われる音楽体系。神霊と人間の交感を音響的に媒介する。

どんな音か

道教の斎醮(さいしょう)儀礼で演奏される器楽合奏。ショナウ(嗩吶、ダブルリード木管)、シェン(笙、複数の竹管)、グー(鼓、大太鼓)、ロー(鑼、銅製の鐘)などが同時に進行し、各楽器は『独立した旋律』を担当しながら『統一された宇宙観』を表現する。テンポは遅く、各フレーズの間に『無音』が意図的に挿入される。その無音こそが『神霊と人間の交感の場』とされている。

生まれた背景

道教の儀礼体系は、漢代(紀元前2世紀)の民間信仰と、中国古典音楽理論が融合したもの。特に『五音説』(五行に対応する5つの音階)が道教の宇宙観と結びつき、儀礼音楽の構成原理となった。白雲観(北京のダオイスト寺院)などを中心に、この伝統は今も厳密に守られている。Cultural Revolutionで一度は断絶しかかったが、1980年代以降の宗教復興とともに、若い道士たちへの伝承が再開された。

聴きどころ

一見複雑に絡み合った楽器群も、よく耳を澄ますと『低音の一本の線』が全体を支えている。その低音線を追い続けると、曲の『構成図』が立ち現れてくる。また、各楽器が一瞬だけ『唯一の音』を発する瞬間がある。その瞬間は『神の呼び声』を表現しており、聴き手はその沈黙に耳を傾ける。

発展

1949年以降の中国本土では弾圧を受けたが、台湾・香港・シンガポール華人共同体で世襲伝承が続いた。1980年代以降の改革開放で上海白雲観・武当山・青城山などで復興が進む。1990年代以降ユーリ・パナーソフら西洋研究者の録音で世界に紹介された。

出来事

  • 142: 張道陵、天師道創始
  • 7世紀: 唐玄宗、道教儀礼音楽の宮廷化
  • 1953: 台湾道教総会設立
  • 1986: 中国道教協会、道楽研究班発足

派生・影響

中国民俗音楽・劇音楽(京劇・崑劇)の鳴り物、台湾道教 Pop(Daoist Ambient)、近年の中華圏アンビエント音楽に影響。

音楽的特徴

楽器笙、篳篥、笛、古琴、銅鑼、木魚、磬、声

リズム儀礼節次、歩罡、五行音律、対唱

代表アーティスト

  • Baiyun Guan Daoist Musicians中国 · 1224年〜

代表曲

  • Quanzhen Daoist Morning LiturgyBaiyun Guan Daoist Musicians

日本との関係

道教儀礼音楽は、日本の古典音楽(雅楽、仏教声明など)に影響を与えたと考えられているが、直接的な系統図は不明確。ただし、空海がもたらした密教音楽の理論構造の中に、道教的な『五音説』の痕跡があると指摘する研究者がいる。1990年代の民族音楽ドキュメンタリーで、道教儀礼のクローズアップ映像が日本テレビで放映されたことがある。

初めて聴くなら

白雲観の道士たちによる『Quanzhen Daoist Morning Liturgy』。朝焼けが入り始める時間帯(午前4~6時)に聴くと、儀礼の時間構造が自分の生体リズムと共鳴する。30分以上の長さがあるが、途中で聴くのを止めず、儀礼の『完成』まで耳を傾けることが重要。

豆知識

白雲観は北京の都市圏にありながら、1000年以上の儀礼記録を保持している。Cultural Revolutionの『四旧破壊』(古い文物の破壊)の際に、楽譜や儀礼本が土に埋められ、終結後に掘り出されたというエピソードが伝わっている。つまり、この音楽は『埋蔵音楽』の一種でもある。

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