ズンドラ
ブータン王国の宗教・古典歌曲伝統。
どんな音か
ズンドラはブータン語(ゾンカ語)で歌われる古典様式の歌曲で、ゆっくりとした一定のテンポで進む。ドランニェン(リュート族の弦楽器)が旋律を支え、それに合わせてチゥリウム(竹製の横笛)が装飾的な旋律を加えることもある。声は細く真っ直ぐで、過度な装飾よりも発音の明瞭さを重視する。一曲が5〜10分にわたって続くことがあり、同じ旋律の繰り返しの中で歌詞だけが変わっていく形が多い。録音で聴くと非常に静かで単調に感じるかもしれないが、ブータンの宮廷文化や僧院の文脈に置くと、その静けさ自体が様式の核だとわかる。
生まれた背景
聴きどころ
「ズンドラ Song」として流通している録音はいくつかあるが、ドランニェンの弦の共鳴を最初に確認する。次に声がその音の上でどのように動くか——旋律の輪郭は単純だが、ゾンカ語の声調が旋律に強い影響を与えているため、歌詞の言語を理解しなくても声の動きには独特のリズムが感じ取れる。テンポが一定に保たれる静謐な時間の流れに身を任せることが、この音楽への入口だ。
発展
1971年に王立芸術院(RAPA)が設立され、ズンドラを含む伝統音楽の保存・上演を担った。Jigme Drukpa らの音楽家が国際舞台で紹介し、近年は若者向けに再編する試みも行われている。
出来事
- 17世紀: シャブドゥン期に文化的基礎形成。
- 1971年: 王立芸術院設立。
- 1990年代: ジグメ・ドゥルクパ国際録音。
- 2008年: ブータン伝統音楽保存政策強化。
- 2010年代: 若手によるズンドラ再解釈。
派生・影響
ボエドラ(村落踊り歌)・現代ブータン・ポップ・ヒマラヤ仏教圏の音楽との比較対象となる。
音楽的特徴
楽器ダムニェン(六弦琴)、ピワン、リム(笛)、声
リズム緩やかな自由律、長母音の引き伸ばし、仏教的詞章
代表曲
Zhungdra Song (1995)
日本との関係
日本ではほぼ無名。ブータンへの関心はGNH(国民総幸福量)政策の文脈で高まることがあるが、音楽にまで踏み込む機会は稀だ。
初めて聴くなら
「ズンドラ Song」として配信されている音源は数種類あり、ドランニェンの生音が入ったシンプルな録音が最初の体験として適している。ブータンの自然映像と合わせて聴くことを勧める。音楽を「完成された芸術作品」として聴くより、その場の空気感として受け取る姿勢で聴くと近づきやすい。
豆知識
ブータンは1999年まで公共のテレビ放送が存在しなかった。外部の音楽文化が入り込む機会が他国と比べて遅れたことで、ズンドラのような伝統様式が比較的原形を保ったとも言われる。また、ブータン王室は音楽と芸術の保護に積極的で、国王自身が民俗音楽の収集と保護を公的に支持してきた。
