宗教・霊歌

ゾロアスター教典礼音楽

Zoroastrian Liturgical Music

イラン・インド / 西アジア · -1200年〜

古代ペルシア起源のゾロアスター教(パールスィー)の典礼で行われる、アヴェスター語朗誦伝統。

どんな音か

古代ペルシア起源のゾロアスター教の典礼言語アヴェスター語を、単旋律で朗誦する。ただし『朗誦』というより『詠唱』であり、音程の高低が意図的に操作される。一つの文節(ガー)が数分にわたって歌われることもあり、時間感覚が拡張される。声は澄み、装飾的な音は排除される。楽器の伴奏はなく、完全無伴奏。アヴェスター語の母音が、現代ペルシア語やグジャラーティー語と異なるため、発音そのものが『古さ』を感じさせる。

生まれた背景

ゾロアスター教は、紀元前1500年ごろのイラン高原から出現し、古代ペルシア帝国の国教となった。アレクサンドロス大王の征服とイスラム化により、イランから主にインド(グジャラート州)に移民し、パールスィーとして現存している。アヴェスター語は、紀元前10世紀から6世紀の間に成立した『聖典アヴェスター』の言語で、現在は日常言語ではなく、典礼言語としてのみ使用される。典礼の朗誦者(モベド)は、10年以上の厳密な修行を積む。

聴きどころ

アヴェスター語の子音が現代言語と異なるため、発音そのものが『時間の深さ』を感じさせる。また、単純に見える単旋律の中に、マイクロトーン(四分音)的な微妙な音程変化が含まれることがある。これは、西洋音階では捉えられない、古代イラン音響学の遺産である。朗誦の『沈黙』——つまり言葉と言葉の間の空間——も、儀礼の重要な部分。

発展

サーサーン朝崩壊後はヤズド・ケルマンのイラン・ゾロアスター共同体と、インド・ナヴサーリ・ボンベイのパールスィー共同体に分かれ独自伝承が続いた。19世紀以降パールスィーの近代化と共に楽譜整備が進み、20世紀末以降は録音による国際的保存運動が展開している。

出来事

  • 前1200頃: ザラスシュトラ伝承上の活動期
  • 651: サーサーン朝崩壊、ゾロアスター教徒インド移住
  • 1851: ボンベイ・パールスィー音楽復興運動
  • 2010年代: アヴェスター朗誦のデジタル保存プロジェクト

派生・影響

古代ペルシア宮廷音楽の音律的源泉、近現代パールスィー文化の音楽要素、近年の世界古代宗教音楽復元プロジェクト(古代音楽研究家らによる)。

音楽的特徴

楽器男声(無伴奏独唱・斉唱)

リズム自由リズム、アヴェスター語、祭儀テキスト固定旋律

代表アーティスト

  • Bombay Parsi Mobed Councilインド · 1850年〜

代表曲

日本との関係

日本ではゾロアスター教の知名度そのものが低く、音楽文化としての認知度はほぼゼロ。オリエント学やイラン文学の専門家にのみ知られている。

初めて聴くなら

Bombay Parsi Mobed Council による『Yatha Ahu Vairyo(如是智者のオメットル)』。ゾロアスター教の最重要讃詞の一つ。短く、単純ながら深い。続けて『Ashem Vohu』で、別の讃詞の朗誦様式を聴く。夕方の静かな時間に、または瞑想時に聴くことを勧める。

豆知識

アヴェスター言語は、長年『失われた言語』とされていたが、19世紀の言語学者による復元努力により、現代でもパールスィー・モベド(司祭)によって、儀礼的に保存されている。朗誦の『正確さ』は、母音・子音の発音、イントネーション、沈黙の長さまで細かく規定されており、一度の誤りが儀礼全体を無効にすると信じられている。つまり、2600年前の言語と音響が、ほぼ変わらずに現在に伝承されている可能性がある。

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