ジャイナ教ストヴァン
ジャイナ教ティールタンカラ(救済者)讃歌。寺院・家庭・祭礼で歌われる。
どんな音か
スタヴァンは、ジャイナ教の救済者ティールタンカラ——特にマハーヴィーラ(紀元前6世紀頃)——を讃えるために歌われる信仰歌だ。メロディーは比較的単純で、繰り返しが多い。声は飾らず、会衆が一緒に歌えるよう平明に保たれることが多い。伴奏はハルモニウム(足踏みオルガンに似た鍵盤楽器)と、タブラーや小さなシンバル(カルタール)が加わる場合がある。テキストはグジャラーティー語、ヒンディー語、プラークリット語などで書かれ、解脱・非暴力・魂の清浄を主題にする。
生まれた背景
ジャイナ教は紀元前6世紀頃のインドに起源を持ち、現在はグジャラート州やラージャスターン州を中心に約500万人の信者がいる。スタヴァンは寺院の朝の礼拝(プージャー)や祭礼(パルユシャナなど)で歌われ、識字者が少なかった時代に教義を口伝えで広める手段でもあった。中世の詩人・聖者たちが多くのスタヴァンを作り、現在も新しい曲が作られている。
聴きどころ
歌詞の意味よりも、声の集団性に耳を向ける。寺院での録音であれば、複数の声が揃ったり微妙にずれたりする様子が聞こえる。ハルモニウムのドローン(持続低音)が底に敷かれていることが多いので、その音がどの音程で保たれているかを聴き取ると音楽の中心音が分かる。
発展
中世以降、シュヴェターンバラ派・ディガンバラ派それぞれで独自レパートリーが発達し、20世紀の宗派覚醒運動でレパートリーが整理・出版された。グジャラート・ラージャスターン・カルナータカのジャイナ・コミュニティで現代も活発に実践され、ボリウッド作曲家(アヌラーダ・パウドワール等)による録音もある。
出来事
- 前527: マハーヴィーラ涅槃(伝承)
- 12世紀: ヘーマチャンドラ、讃歌集成
- 1900-50: 二派覚醒運動でレパートリー整備
- 2000年代: ジャイナ・スタヴァン録音産業の世界化
派生・影響
現代インドの宗派ポップ音楽、ジャイナ・コミュニティ祭礼舞踊、近年の世界倫理運動(動物福祉等)関連の音楽実践と結びつく。
音楽的特徴
楽器声、ハルモニウム、タブラ、マンジーラ
リズムターラ循環、有節形式、プラークリット・グジャラート語
代表曲
- Bhaktamar Stotra
日本との関係
日本ではジャイナ教そのものの認知が低く、スタヴァンが単独で紹介される機会はほとんどない。南アジア音楽研究や、ガンディーの非暴力思想を介して間接的にジャイナ教に触れる文脈で言及される程度だ。
初めて聴くなら
『バクタマーラ・ストートラ』はジャイナ教で広く歌われる讃歌で、検索すると複数の録音が見つかる。まず寺院での集団唱和の録音を聴くと、このジャンルの本来の文脈が伝わりやすい。
豆知識
「スタヴァン」という言葉はサンスクリット語の「讃える」(stava)に由来する。ジャイナ教では神に祈願して現世利益を求めることが教義上否定されているため、スタヴァンの歌詞は「ティールタンカラに救ってほしい」ではなく「その生き方を讃える」内容になっている点が、ヒンドゥー教の讃歌とは性格が異なる。
