クルアーン朗誦(タジュウィード)
イスラム啓典クルアーンの規範的朗誦伝統。神学上は『音楽』ではなく啓示の音声化として位置付けられる。
概要
アラビア語クルアーンを定められた発音規則(タジュウィード)に従い、長母音・喉音・鼻音化などを正確に再現して朗じる音声芸術。ムラッタル(明瞭朗誦)とムジャウワド(装飾朗誦)の二様式があり、後者はマカーム旋法体系を用いて自由に旋律展開する。発信者は朗誦者(カーリー)と呼ばれ、専門教育機関(エジプトのアル・アズハルなど)を経た高度な専門職である。
背景
預言者ムハンマド(570頃-632)への啓示の伝達手段としてクルアーンは口頭朗誦から始まり、暗誦者(ハーフィズ)による継承が信仰の根幹を成してきた。イスラム神学・法学の主流見解では『音楽(ムーシーカー)』ではなく『朗誦(ティラーワ)』として区別され、楽器伴奏や演奏会的消費を避ける慎重な扱いが求められる。本記事も音楽現象としてではなく音声伝統として扱う。
発展
7-8世紀に7つの正統な読誦法(キラーアート)が体系化され、エジプトでマカーム旋法を用いる装飾朗誦様式(ムジャウワド)が10-12世紀に発達した。20世紀のラジオ・カセット・衛星放送・インターネットを通じてエジプト系朗誦様式が世界標準化、近年はサウジ系のより簡素なムラッタル様式も並行的に普及している。
出来事
- 650頃: ウスマーン版クルアーン正典化
- 10世紀: イブン・ムジャーヒドが7つのキラーアートを確定
- 1932: カイロ版クルアーン印刷、世界標準化
- 1960年代: シャイフ・アブドゥル・バースィト・アブドゥル・サマド、ラジオで世界的影響
派生・影響
アラブ古典音楽のマカーム使用に深い影響を与え、ナシード・カッワーリー・スーフィー音楽など多くの宗教音楽伝統が朗誦の音響モデルに依拠する。
音楽的特徴
楽器独唱(無伴奏)
リズム自由リズム、タジュウィード規則、マカーム旋法、装飾的メリスマ
代表アーティスト
- Abdul Basit Abdul Samad
- Mishary Rashid Alafasy
代表曲
- Surah Al-Fatiha (Murattal) — Mishary Rashid AlafasyYouTube で検索
- Surah Ar-Rahman (Mujawwad) — Abdul Basit Abdul Samad (1970)YouTube で検索