Industrial Music
1970年代後半の英国で生まれた音楽運動。Throbbing Gristleを起点に、ノイズやテープの切り貼りを多用し、ロックに対してわざと醜く突きつけた回答として、聴き心地のよい「音楽らしさ」をあえて拒んだ。
What it sounds like
工場機械音、ノイズ、フィードバック、金属を叩く音、不協和音をシンセサイザーと組み合わせて作る音楽。リズムは機械のように規則正しく反復するものが基本だが、拍子が途中で不規則に変わるものもある。テンポは曲ものの中核で100〜130BPM前後が多いが、全体としては幅広い。ボーカルは囁きから絶叫まで、歪み加工を経ることが多い。歌詞は管理社会・暴力・性・宗教批判・機械化・抑圧といったテーマを扱う。録音もわざと聴きやすく整えず、ノイズすれすれの荒い音のまま仕上げる。1990年代以降、エレクトロ・インダストリアル、インダストリアル・メタル、リズミック・ノイズなどに細分化した。
How it came about
1975〜77年にかけて、英国で「インダストリアル・ミュージック」という呼称が成立した。中心となったのはロンドンのThrobbing Gristle(1975年結成)で、彼らが1976年に立ち上げた自社レーベル「Industrial Records」がジャンル名の由来である。シェフィールドのCabaret Voltaire、オーストラリアのSPKらが初期の実験的サウンドを広げた。1980年代にはシーンが各地へ広がる。ドイツのEinstürzende Neubautenは金属の廃材そのものを打楽器として叩き、カナダのSkinny Puppyはサンプラー主導のより電子的な音を作った。ベルギーのFront 242は硬質なダンスビートでEBM(エレクトロニック・ボディ・ミュージック)という派生を生み、スロベニアのLaibachは全体主義の美学を逆手に取った。カナダのFront Line AssemblyやドイツのKMFDMらも各国でこの音を受け継ぐ。1990年代にはNine Inch NailsとMinistryがロックの主流チャートに到達し、やや遅れてMarilyn Mansonも大成功を収める。Trent Reznor(Nine Inch Nails)はその後、映画音楽でアカデミー賞を受賞するに至る。
What to listen for
「音楽」と「ノイズ」の境界を意図的に揺るがす作曲思想。シンセの音と、録音して取り込んだ工場の音とが、どちらも対等な楽器として同じように扱われている点に注目してほしい。リズムが機械のように正確になるほど、そこに人の手の気配が消え、無機質さが際立つ。本来ならバスドラムやスネア(基本のドラム)が入る位置で、パイプや金属くずを叩く音が鳴っている——そこに耳を澄ましてほしい。ボーカルはヴォコーダーや電話越しのような加工が多い。ライブでは、大型スクリーンや工業的なデザインの舞台装置と組み合わせて演奏されることが多い。
If you only hear one thing
ジャンル名と同じスローガンを掲げたデビュー作、Throbbing Gristle『The Second Annual Report』(1977)が源流の一枚。同じTGの『20 Jazz Funk Greats』(1979)は最もとっつきやすい入口だが、本来は皮肉に満ちた異色作なので順番に注意。1990年代を象徴する1曲は、Nine Inch Nails『Closer』(1994)。さらに踏み込むなら、日本独自の激しいハーシュノイズ(ジャパノイズ)からMerzbow『Pulse Demon』(1996)。厳密にはインダストリアルとは別の流れだが、非常階段やインキャパシタンツと並べて聴くと、その極北がよく見える。
Trivia
「Industrial」というジャンル名そのものが、Throbbing Gristleのデビュー作とレーベル「Industrial Records」にまつわる標語「Industrial Music for Industrial People」(インダストリアルな人々のためのインダストリアル・ミュージック)から生まれた、珍しいケースである。これは企業広告にありがちな大げさな言い回しを、皮肉まじりにもじったものだった。なお、Throbbing GristleのGenesis P-Orridgeは、後にPeter Christophersonらと Psychic TV を結成し、より宗教・神秘主義的な方向へ進んだ。
Notable artists
- Cabaret Voltaire
- Throbbing Gristle
- Coil
Notable tracks
- Hamburger Lady — Throbbing Gristle (1978)
- Nag Nag Nag — Cabaret Voltaire (1979)
- Discipline — Throbbing Gristle (1981)
- Sensoria — Cabaret Voltaire (1984)
- Tainted Love — Coil (1985)
