Grime
2000年代初頭のロンドンで生まれた英国独自の電子ラップ。ダンス音楽UKガラージを母体に、暗く重いシンセのベースと、超高速で言葉を畳みかけるラップに絞り込んだのが特徴。テンポはBPM140前後。
What it sounds like
クラブの大型スピーカーが、地を這う一本のシンセ・ベースで震える。その重低音を切り裂くように、ロンドン訛りの高速ラップが鋭く前へ出る——これがグライムだ。テンポは速いのに、ドラムの組み方によって体感の速度は半分ほどに落ち、ゆったりと地を這って聞こえる。これを「ハーフタイム」と呼ぶ。音色は硬く電子的で、低く伸びる単音のシンセ・ベースが曲の屋台骨を担う。その上に、ホラー映画を思わせる暗い音色——弦楽器ふうの旋律や、長く伸びる持続音——が短く差し込まれる。ドラムは、バスドラム(キック)と打音(スネア)、その合間に細かく刻むハイハットだけ、という素っ気ない構成が多い。音数が少なく余白が大きいぶん、その隙間にラップの言葉が鋭く突き刺さる。歌うというより語りに近い、超高速のラップが乗る。使われるのは、移民の言葉が混ざりあった現代ロンドンの若者言葉だ。歌詞は英語で、街での暮らし、ロンドンの貧困、人種差別、警察との緊張、そして自らを鼓舞する言葉などを扱う。
How it came about
2000〜02年のロンドン東部(Bow、Hackney、Tower Hamlets)で、先行するダンス音楽のUKガラージや、高速ビートのジャングルを土台に、若いMC(ラッパー)たちが独自のサウンドを作り上げた。中心にいたのはWiley(ワイリー/ジャンルの父と呼ばれる)とDizzee Rascal(ディジー・ラスカル)ら若い世代で、Rinse FMやDeja Vuといった海賊ラジオがシーンの発信源になった。Dizzee Rascal『Boy in da Corner』(2003)が世界に知られるきっかけとなる。だがその後、シーンは数年にわたり地下へ沈み、表舞台から姿を消す。再び火をつけたのが2014年前後のSkepta(スケプタ)らで、地下の海賊ラジオから生まれた音が、ここから一気に表へ出る。Skeptaの『Konnichiwa』(2016)がマーキュリー賞を受賞、続くStormzy(ストームジー)の『Gang Signs & Prayer』(2017)はUKアルバムチャート1位を獲得した。これはグライム作品初のNo.1であり、米国ラップが主流の中で、英国独自の音楽が初めて自国チャートの頂点に立った瞬間だった。同時期の米国ラップとは違い、UKガラージとジャングルという英国のダンス音楽を母体に持つ点が、グライムの個性だ。
What to listen for
まずベースに耳を澄ませてほしい。グライムはたいてい、太い単音のシンセ・ベースが1本だけ強く鳴る。このベースが曲全体の響き(コード)をほぼ一手に決めている。最初の8小節は、ドラムやラップではなくベースだけを追ってみると、その役割がよく分かる。次に、ドラムが速く走らずゆったり聞こえる「ハーフタイム」のノリを体感してほしい。さらに、暗く不穏な短調のシンセの旋律にも注目。そして、言葉を超高速で吐き出すラップの節回し(フロウ)も聴きどころだ。ロンドン訛りの俗語(「innit」「bare」「peng」「bruv」など)が散りばめられているのも面白い。
If you only hear one thing
まず1曲なら、シングル『I Luv U』(Dizzee Rascal、2003)。ジャンルが誕生した瞬間の荒削りな衝動がそのまま入っている。同年のアルバム『Boy in da Corner』も全体でぜひ。シーンの口火を切ったWiley『Eskimo』(2002)も外せない。現代の到達点を聴くなら、洗練されて主流に届いたSkepta『Shutdown』(2015)。最近のヒットならStormzy『Vossi Bop』(2019)。
Trivia
初期グライムの多くは、家庭用ゲーム機 初代PlayStation(PS1)の音楽ソフト『Music 2000』(1999年/約20ポンド)などで作られた。Wiley(ワイリー)ら創始者は、本格的なスタジオ機材を手にする前に、のちの土台となるインスト(歌の入らない演奏だけのトラック)を、これで作っていた。「Grime」は「汚れ、垢」という意味の言葉。当時の英国メディアが、サブベースの重い音を「grimy(汚い)」と評し、「ガラージの汚いバージョン」と侮蔑的に呼んだのが、やがてシーン自身の呼び名として定着した(諸説あり)。Skepta(本名Joseph Olaitan Adenuga Jr.)はナイジェリア移民の子として北ロンドンに育った。2016年、DrakeがSkeptaの音楽集団(クルー)『ボーイ・ベター・ノウ(BBK)』への加入を公表して後押しし、これがグライムの米国認知の転機になった。
Hear the rhythm
The signature rhythm pattern of this genre. Press play to loop it, and follow the score below to see which beat is sounding.
Notable artists
- Dizzee Rascal
- Lethal Bizzle
- Skepta
- Stormzy
Notable tracks
- I Luv U — Dizzee Rascal (2003)
- That's Not Me — Skepta (2014)
- Shut Up — Stormzy (2015)
- Shutdown — Skepta (2015)
- Pow! (Forward) — Lethal Bizzle (2004)
