Bedroom Pop
2010年代後半、若い世代が自宅で録音し、BandcampやSoundCloudに直接発表することで広まったインディーポップの流れ。
What it sounds like
十代の若者が自宅の寝室で撮った一本の動画から世界へ広まった——そんなジャンルだ。プロのスタジオではなく、寝室で一人録音されるDIYポップで、歌うのは内省や孤独、報われない恋といった、ひとり部屋でこぼれ出るような感情である。テンポはミッドテンポからスローが中心だ。使う楽器は、クリーンな音色のエレキギターを軸に、シンセサイザー、ドラムマシン、サンプラー、エレキピアノなどだ。そこに、時おりハーモニーを重ねた声が乗る。歌い手は男女を問わず、語りかけるような親密さがある。音質をあえて粗く抑えた「ローファイ」(lo-fi=音の作りをあえて荒くした録音)が特徴で、寝室の窓の外の物音や息遣い、テープ・ノイズがそのまま残ることもある。歌詞は英語が多いが、日本語、韓国語、スペイン語など多言語へ広がっている。
How it came about
2010年代後半、SoundCloud、Bandcamp、Spotifyといった配信プラットフォームが普及し、メジャーレーベルを介さずに自宅録音した楽曲を世界中へ発信できる環境が整った。代表格はClairo『Pretty Girl』(2017、当時18歳の自宅録音曲)、Cuco、Beabadoobee、boy pabloら。ベッドルーム・ポップに先立ち、ローファイなDIY感を持ち込んだ先行者としてMac DeMarcoの名も挙がる。各地でほぼ同時多発的に生まれたのも特徴で、アジアでも同質の動きが生まれた。日本のTempalay、宅録・ローファイの感性を共有する韓国のwave to earthなどが挙がる。Lo-Fi Hip-Hopとも親和性が高く、若い世代の音楽消費を支えるジャンルの一つになっている。
What to listen for
鍵はDIY感だ。メジャー・レーベルの磨き上げられたプロダクションにはない、寝室そのものの空気がある。録音には部屋の反響や息遣い、テープ・ノイズがそのまま混じり、声は聴き手のすぐ隣に座っているかのように近く聞こえる。完璧に整えられていないことこそが、親密さの正体だ。
If you only hear one thing
まず1曲ならClairo『Pretty Girl』(2017)。ネットで一気に広まった、ベッドルーム・ポップを代表する一曲だ。もう数曲なら、英国勢のBeabadoobee『Coffee』(2017)、スペイン語で歌うCuco(米国のメキシコ系)『Lo Que Siento』(2017)——同じ気だるさが別の言語で響く——、ノルウェーのboy pablo『Everytime』(2017)。日本語ならTempalay『あびばのんのん』(2021)。同じ親密さが言語を超えて成立しているのが分かる。
Trivia
Clairo(本名Claire Cottrill)が2017年8月に投稿した宅録動画『Pretty Girl』は、口コミで急速に広まり、数年でYouTubeの再生数は数千万回に達した。当時は18歳の高校生だった。のちに、父親がマーケティング業界の幹部で、音楽メディアThe Faderの共同創業者と旧知の仲だったことから同社のFader Labelと契約に至ったことが明らかになった。これを機に「本当は業界が裏で仕掛けた売り出しではないか」(いわゆる“インダストリー・プラント”=草の根に見せかけた業界主導の売り出し)という論争が起きた。同じ頃、米国のSteve Lacyは、バンドThe Internetに在籍しながら、初のソロEPをほぼiPhone(GarageBandと簡易インターフェース)だけで録音している。手のひらの機材が、世界に届いた。
Notable artists
- Mac DeMarco
- Clairo
- boy pablo
- Beabadoobee
Notable tracks
- Salad Days — Mac DeMarco (2014)
- Coffee — Beabadoobee (2017)
- Everytime — boy pablo (2017)
- Pretty Girl — Clairo (2017)
- Sofia — Clairo (2019)
