トゥアレグ・デザートブルース
サハラ砂漠の遊牧民トゥアレグが20世紀後半にエレキギターを取り入れて生み出した、政治的覚醒と離散の記憶を背負うブルース系音楽。
概要
伝統的なテハルダント琵琶や女性のティンデ太鼓に根差した旋律を、エレキギターとベースが反復的に紡ぐ。ペンタトニックを基調とする旋律やモード感は北米デルタブルースと驚くほど似通い、「砂漠のブルース」と称される。歌詞は故郷喪失、自治、民族の尊厳を扱い、政治と切り離せない。
背景
1960年代以降のマリ・ニジェールでの旱魃と内戦を逃れてアルジェリアやリビアの難民キャンプ・兵営に集まったトゥアレグの若者が、西洋ロック・北アフリカ歌謡・伝統旋法を独学で混ぜたのが起点である。1980年代にはハディラルー・アグ・ハバスらがエレキギターを「砂漠の武器」として奉じ、テンナデイ(我々の言葉)と呼ばれる抵抗歌を地下流通のカセットで広めた。植民地の国境分割で四ヵ国に引き裂かれた民族が、音楽を介して共同体意識を再構築した点が決定的に重要である。
発展
1990年代の和平合意以降、ティナリウェンが先頭に立って国際フェスへ進出し、欧州ワールドミュージック市場に「Desert Blues」のラベルで紹介された。続く世代のボンビーノ、テラカフト、タミクレストらはストーナーロックやインディーロックと交差しつつ独自路線を確立。マリ北部の2012年危機ではイスラム過激派による音楽禁令の下で多くの演奏家が南部や欧州に避難し、亡命と帰還のサイクルが現在も続く。
出来事
- 1979: アルジェリア・タマンラセットで若いトゥアレグがエレキギターでの集団演奏を始める
- 1982: ティナリウェンの母体が結成
- 1992: マリ・トゥアレグ反乱と和平合意
- 2001: フェスティバル・オ・デゼールがマリ・エサキュンで開始
- 2011: ティナリウェン『Tassili』がグラミー賞最優秀ワールドミュージック・アルバム獲得
- 2012: マリ北部のイスラム過激派支配下で音楽が事実上禁じられる
派生・影響
西アフリカのバンバラ系民族音楽、北アフリカのライ、欧米のサイケデリックロックと相互浸透し、現代のグローバルなデザートロック/砂漠音楽シーンを形成している。ボンビーノはダン・オーアバック(ザ・ブラック・キーズ)の制作を経てインディー圏に届いた。
音楽的特徴
楽器エレキギター、ベース、ジャンベ、テハルダント、ティンデ、声
リズム反復的6/8シャッフル、ペンタトニック旋法、コール&レスポンス
代表アーティスト
- Ali Farka Touré
- Tinariwen
- Tamikrest
- Bombino
代表曲
- Amassakoul 'N' Ténéré — Tinariwen (2004)YouTube で検索
- Tassili — Tinariwen (2011)YouTube で検索
- Azamane Tiliade — Bombino (2013)YouTube で検索
- Toumast Tincha — Tamikrest (2017)YouTube で検索