Bossa Nova
1950年代後半のリオデジャネイロで生まれた、サンバを静かに作り替えたスタイル。クールジャズの和音をまとい、囁くように歌う。
What it sounds like
BPMは70〜100、4分の2拍子。ギターのバッキングは、一例として「タカ・タッ・タカ・タカ」と書き表せるようなシンコペーション(裏拍を食うリズム)で、曲ごとに表情を変える。ガット(ナイロン弦)ギターのコード弾きが旋律と伴奏を兼ねる。歌は声を張らず、語りかけるように囁くのが特徴だ。基本の和音に、根音から数えて遠い9度・11度・13度といった高い音をさらに重ね(こうした飾りの音をテンションと呼ぶ)、響きをふくよかに、少し濁らせる。コードを半音ずつずらしていく進行も多く、きっちり終止しない宙づりの響きが、緊張を解かないままくつろがせる独特の心地よさを生む。録音はマイクを口元に近づけて行うので、歌の息づかいまでそのまま入る。総じて、息をひそめたような音づくりだ。歌詞はポルトガル語で、テーマは恋愛、海、リオの街、そしてサウダージ(憧憬や哀愁)である。
How it came about
ボサノヴァの登場は、サンバを「爆音の祭り」から「囁きの室内楽」へ作り替えてみせた一手だった。1958年、ブラジル・リオデジャネイロ。歌・ギターのジョアン・ジルベルト、作曲のアントニオ・カルロス・ジョビン、作詞のヴィニシウス・ヂ・モライス——この三人が仕掛け人だった。起点とされるのは、ジョビン作曲・モライス作詞の『Chega de Saudade』をジョアン・ジルベルトが録音したシングル(1958)である。やがてこの音は、米国のジャズ・ミュージシャンが取り上げたことで世界の耳に届く。1962年、スタン・ゲッツとチャーリー・バードの『Jazz Samba』が米国でヒットした。これはブラジル本人たちが参加していない米国側のジャズ作品で、ジョビン作『Desafinado』のヒットを通じてボサノヴァのレパートリーを米国に広めた。続く『Getz/Gilberto』(録音1963・発売1964)は、アストラッド・ジルベルトの英語歌唱『The Girl from Ipanema』を収録し、ボサノヴァを世界的なものにした。1960年代後半以降、ボサノヴァはエリス・レジーナらに歌い継がれる一方、カエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジルらのトロピカリア世代がこれを批判的に取り込み、ロックなどと融合させながら、より広いブラジル音楽(MPB)の潮流へと発展させていった。
What to listen for
ギターのシンコペーション——左手で和音を押さえ、右手は親指でベース音、人差し指から薬指で和音を刻む。この指の分業が独特のリズムを生む。ジョアン・ジルベルトに典型的な、囁くような小音量の歌い方も聴きどころだ。和音に重ねた音(テンション)が生むおしゃれな響き、特にメジャー・セブンスのやわらかな響きにも耳を澄ませたい。バッキングのドラム(ブラシで叩くことが多い)の繊細さも特徴だ。
If you only hear one thing
1曲なら、João Gilbertoのシングル『Chega de Saudade』(1958)。アルバムなら、Stan Getz & João Gilberto『Getz/Gilberto』(1964)。迷ったらまずこれでいい。慣れたら次に、Antonio Carlos Jobim『Wave』へ。
Trivia
bossaはポルトガル語で「こぶ」「出っ張り」が原義だが、転じて「センスのよいやり方」「気の利いた振る舞い」を指すスラングでもある。「Bossa Nova」はそこから「新しい波」「新しい感覚」ほどのニュアンスになる。『The Girl from Ipanema』で英語を歌ったアストラッド・ジルベルトは、当時はプロのレコーディング歌手ではなく、夫であるジョアン・ジルベルトの付き添いでスタジオに来ていただけだった——というのが、よく語られる成立秘話だ。ジョアン・ジルベルト自身は静けさへのこだわりで知られ、録音では会話に近い音量でしか歌わなかったと伝えられる。スタジオはニューヨークの A&R Recording で、囁くようなあの歌声がそのまま記録された。
Hear the rhythm
The signature rhythm pattern of this genre. Press play to loop it, and follow the score below to see which beat is sounding.
Notable artists
- Stan Getz
- Antônio Carlos Jobim
- João Gilberto
Notable tracks
- Chega de Saudade — João Gilberto (1958)
- Desafinado — João Gilberto (1959)
- Corcovado — Antônio Carlos Jobim (1960)
- The Girl from Ipanema — Antônio Carlos Jobim (1962)
- Wave — Antônio Carlos Jobim (1967)
