Drift Phonk
メンフィス系ヒップホップから派生した「フォンク(Phonk)」を、さらに速く、激しくしたサブジャンル。ロシア・東欧を中心に再構築され、車のドリフト動画と結びついてTikTokで爆発的に広まった。本場アメリカではなく、ロシアと東欧、そして車の映像から世界へ広がった異色のジャンルだ。
What it sounds like
フォンク(米国メンフィス発祥の、重低音を効かせたヒップホップ系ジャンル)を、特に車のドリフト動画(「ドリ車」)に合わせてテンポを上げた高速サブジャンルだ。BPMは150〜170前後。主な構成要素は次の通り。歪んで唸る808キック(ヒップホップで多用される、腹を打つ深いバスドラムの音)、暗く物悲しい短調のシンセ旋律、跳ねるカウベル、そしてロシア語・ウクライナ語・英語などの短いボーカルの断片。これらの上に、細かく刻むハイハット(金属的なリズム音)が重なる。曲尺は2〜3分と短く、TikTok・YouTube・Spotifyでの再生を前提に作られている。クラブの音響よりも車のスピーカーで鳴らすことを想定し、低域と高域(トレブル)を持ち上げているのも特徴だ。
How it came about
2010年代後半、ロシア・ウクライナ・東欧の若いプロデューサーたちが、米国メンフィス由来のフォンクを、さらに速く、さらに暗く、より攻撃的に作り変えたのが始まりだ。ロシアのINTERWORLD、ウクライナのMoonDeityといった顔ぶれがこの波を代表する。ところが世界的に火をつけたのは「本場」の外、英国のKORDHELLだった。彼の『Murder in My Mind』(2022)が、ドリフト・フォンク全体を一気に押し上げた。そのKORDHELLの正体はベテランのメタル系プロデューサー、Mick Kenney。一方INTERWORLDは全盛期でも20代前半の独学プロデューサーで、担い手の素性がバラバラなのもこのシーンの面白さだ。2020〜22年には、車を横滑りさせて走るドリフト動画(日本車のスープラやAE86を使った映像)がTikTokやYouTubeで拡散し、世界中の視聴者に一気に届いた。その後もハード・フォンクやブラジリアン・フォンクなど、地域ごとの分派が生まれている。
What to listen for
腹に響く808が、歪んで唸るように鳴り続ける。シンセ旋律が高速で刻み、カウベルが跳ねる。サンプリングされたボーカル(時にロシア語の囁き、時にメンフィス・ラッパーの声)が独特の温度感を作る。曲が短いので、繰り返し聴くか、ドリフト動画と一緒に体験するのがいい。
If you only hear one thing
Trivia
ドリフト・フォンクは2022年、SpotifyのバイラルチャートやUS Hot Dance/Electronic Songsチャートに繰り返し顔を出した。クラブやラジオではなく、短尺動画と車の映像が商業的な成否を決めた数少ないジャンルでもある。フォンクのサンプリングは多くが1990年代のメンフィス・ラップ(DJ Spanish Fly、Tommy Wright IIIら)に由来するが、ドリフト・フォンクではほぼロシア・東欧の独自コンテンツへと発展している。
Notable artists
- KORDHELL
- Phonky Tom
- DVRST
Notable tracks
- Close Eyes — DVRST (2022)
MURDER IN MY MIND — KORDHELL (2020)
Phonky Town — Phonky Tom (2019)
I Can't Sleep — Phonky Tom (2022)
Memory Reboot — KORDHELL (2022)
